万博事例に学ぶ!手持ち型デバイスの活用戦略

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2025年の大阪・関西万博では、来場者が能動的に体験することを促すために「手持ち型デバイス」を用いるパビリオンが多くみられました。これらのデバイスは、単なる情報提供ツールではなく、来場者を唯一無二の体験へと誘う鍵となっています。

今回の万博で見られた手持ち型デバイスが来場者の行動や体験をどのように変えたのか、得られた効果と未来の可能性を考察します。

万博で見られた手持ち型デバイスの分類

手持ち型デバイスの形状については、既製品がベースとなっているものと、特注で作られたオリジナルのものに大きく分類されます。

オリジナルデバイスは、体験のテーマに沿ったユニークなデザインで、来場者のワクワク感や没入感を増幅させる効果があります。対して、既製品ベースのデバイスは存在感が薄く、体験そのものに溶け込む傾向があります。

万博で見られた手持ち型デバイスの分類

パビリオンデバイス分類
オリジナルパナソニックグループパビリオン結晶型
電力館タマゴ型
住友館ランタン型
ドイツパビリオンキャラクター型
既製品ベース大阪ヘルスケアパビリオンリストバンド
石黒浩・シグネチャーパビリオンスマートフォン
カナダパビリオンタブレット

デバイスの機能と役割についても、分類することができます。

手持ち型デバイスの機能による分類

デバイスの主な機能デバイスの役割代表的なデバイス名称(パビリオン)
体験のパーソナライズ体験者のデータをインプットして、一人一人異なる体験を提供するリボーンバンド(大阪ヘルスケア)
演出補助演出のスイッチやルート案内の役割を果たす来場者に語りかけるランタン(住友館)
順路ガイドおすすめの展示へと誘導する石型デバイスechorb(シグネチャー宮田)
展示情報ガイド(音声)空間展示に音声をレイヤードさせて情報を補うサーキュラー(ドイツ館)
展示情報ガイド(画面表示)デバイス自体に情報を表示するタブレット型デバイス(カナダ)

上図の分類ではやや強引に5種類に分類していますが、実際は複数の役割をあわせもつデバイスが多いです。

これらのデバイスは、次に紹介するような具体的な使われ方で、展示体験に付加価値を与えていました。

展示体験のパーソナライズ

※画像はイメージ

手持ち型デバイスは、来場者一人ひとりにマッチした体験を提供する、パーソナライズの要となりました。

・大阪ヘルスケアパビリオン「リボーン体験ルート」

入場時に発行される<リボーンバンド>というリストバンドが、体験者の顔画像やバイタルデータを記録します。パビリオン内のコンテンツはすべてこのリストバンドを読み取って進行し、体験中に取得したデータを元に「あなたに必要な」栄養素やレシピを提案したり、来場者に有用なサンプリングお土産をリコメンドしていました。

・パナソニックグループパビリオン「ノモの国」

「ノモの森で結晶を見つける」という、結晶デバイスと出会うところからデバイスによる体験が始まります。「光を集める」などの行動をしていきますが、その際、デバイスは各人の行動傾向データを収集し、終盤では来場者の個性を反映した「蝶」が現れます。体験後、この蝶に再び会うためのQRコード付きカードが渡されます。

パーソナライズによって「自分だけの」「自分に向けた」体験であるという印象が強くなり、高い満足度をもたらします。

ストーリーにマッチした演出のスイッチとして

手持ち型デバイスは、物語を進めるための直感的で楽しい「スイッチ」としても機能しました。

電力館の<タマゴ型デバイス>や、住友館の<来場者に語りかけるランタン>は、来場者にデバイスを持ってパビリオン内を進んでもらう設計です。これらのデバイスを所定の位置に置くと、ゲームや演出、解説などが始まり、体験のトリガーの役割を主に果たします。また、演出の解説やタイムキーパー的な役割も担っています。

電力館のタマゴ型デバイスは、遊んだ展示の数を記録するといったパーソナライズの役割も果たします。

テーマや物語にマッチしたデバイスデザインと、単純明快なインタラクションが、楽しさを増幅させ、記憶に残る体験となります。

キャラクターがかわいいと人気に

デバイスそのものが愛着の沸くキャラクターとなり、体験価値を高める事例も見られました。

ドイツパビリオンのキャラクター型デバイス<サーキュラー>は、“循環経済”をテーマとしたドイツパビリオンのキャラクターが、音声ガイドとして手持ち型デバイスになったものです。

館内のタッチポイントに<サーキュラー>をタッチすると、ブルブルと震えたのちに、解説をしてくれます。かわいいおしゃべりで展示を解説してくれるだけではなく、他の<サーキュラー>と接触させると色が変わり歌いだしたり、返却時に滑り台へ戻すと「ワー」と言いながら転がっていくといった遊び心が、来場者の心を掴みました。

<サーキュラー>とドイツ・パビリオン|サーキュラー・リビング(循環する暮らし)の展示(視察時撮影)
スマートフォンによる音声ガイドが増える中、聞きたい箇所でタッチするだけの使いやすさとキャラクターのかわいらしさで、「実際に使われる」オーディオガイドとして大きな成功を収めたと言えるでしょう。

まとめ

手持ち型デバイスに共通して大切なのは、「携帯しやすさ」「インタラクションが直感的に伝わること」「持つ意味や楽しさが持つストレスを上回ること」です。

さらに「大阪ヘルスケアパビリオン」の事例のようにデバイスをお土産や商品購入と連動させることで、売上を伸ばすことも期待できます。

万博の事例に垣間見られたパーソナライズはさらに進化し、自分だけの物語として体験後も続く設計となるかもしれません。

また複数のデバイスが同期することでグループ体験の強化や、ファンコミュニティの醸成を可能にします。

今回紹介したデバイスは持ち帰りが前提のものではありませんでしたが、体験の記憶を内蔵したお土産とすることも想定されます。そして、これを次回持参すると限定コンテンツが解放されるといった仕組みを導入することで、再来場を促す動機付けにすることも可能でしょう。

手持ち型デバイスは、ゲストのエンゲージメントを深め、結果としてロイヤリティ獲得に繋がる、未来の集客戦略の重要なツールとなるでしょう。


この記事を書いた人

株式会社丹青社 CMIセンター

CMIセンター(クロスメディアイノベーションセンター)は、空間体験の価値を最大化・最適化する専門チームです。テクノロジーとアイデア、多彩な個性と専門性の掛け合わせにより、空間の可能性を追求し、共創を楽しみ、試行錯誤に夢中になりながら、人々のこころを動かす感動体験を創造しています。 CMIセンターの紹介サイトはこちら

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