韓国最大のIR「インスパイア・エンターテインメント・リゾート」視察レポート|非日常へ誘う没入型デジタルアート空間

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インスパイア・エンターテインメント・リゾートは、韓国・仁川(インチョン)の永宗島(ヨンジョンド)に位置する、北東アジア最大級の統合型リゾート(IR)施設です。「次世代型エンターテインメント・リゾート」をコンセプトとし、カジノ、ホテル、エンターテインメント、ショッピング、ダイニングなど、多岐にわたる施設を統合的に提供しています。

そんなインスパイアの目玉として注目されているのが、日常を忘れるような特別な体験を提供する「没入型デジタルアート空間」です。

本レポートでは、オーロラの玄関口に位置するデジタルアート空間「キューブ」、インスパイアのランドマークスペースのひとつである没入型デジタル・エンターテインメント・ストリート「オーロラ」、宇宙をテーマにした没入型デジタルアート展示館「ル・スペース」の3つのエリアに焦点を当て、各エリアがどのように来場者へ没入体験を提供しているのか、現地を視察した「場と人」副編集長の佐藤がご紹介します。

※本レポート内に記載されている情報は、視察時(2025年1月)のものです。

インスパイア・エンターテインメント・リゾート概要

インスパイア・エンターテインメント・リゾートは、世界有数の統合型エンターテインメント・リゾート(IR)開発・運営企業であるモヒガン社が完全所有し、韓国を拠点とする大規模な統合型リゾート施設です。モヒガン社が北米全土で25年以上にわたり培ってきた運営戦略と信頼性がこのリゾートの基盤となっており、アジア市場におけるその展開は業界内外から大きな注目を集めています 。  

このリゾートは、韓国の仁川国際空港IBC-III地区という戦略的な立地に位置しており、多様な施設群を誇ります。具体的には、異なるコンセプトを持つ3棟の高級ホテルタワー、韓国初となる15,000席規模の多目的アリーナ、年間を通じて利用可能なプールドーム、韓国ホテル最大規模の宴会場を含む最新会議施設、最大30,000人が集って多様なアトラクションを楽しめる屋外エンターテインメントパーク、外国人専用カジノ、そしてショッピング、ダイニング、エンターテインメントを融合させた商業施設が含まれています 。  

キューブ(Cube):日常から非日常への導入を担うエントランス

「キューブ」は、没入型デジタル・エンターテインメント・ストリート「オーロラ」への玄関口に位置する、デジタルアート空間です。ここは単なる通路ではなく、これから始まる「非日常へのプロローグ」のような空間となっています。

宮殿の中にいるかのような優美な空間

「クリスタル・パレス」をテーマとした、透明で光輝く宮殿の中にいるような感覚を味わえる空間となっています。天井の巨大なドームや壁に施されたアーチやオブジェが多視点から立体的に見えるように設計されていて、壮麗でフォトジェニックな空間を演出しています。

エスカレーターに乗ると、左右の壁・天井に配置されている大型のLEDスクリーンから映しだされる優美な景観に囲まれ、まるでクリスタルでできた宮殿の中に入っていくようでした。

この短い時間で「日常」から「非日常」へと気持ちが切り替わり、この先にある没入型デジタル・エンターテインメント・ストリート「オーロラ」への期待感を一気に高めます。

多視点から見た立体的な錯覚

複数の大型LEDスクリーンを組み合わせ、映像が多視点から立体的に見えるように設計されています。平面的なスクリーンなにも関わらず奥行きや立体感を感じることができ、映像の中のシャンデリアやオブジェが本当に目の前にあるかのように錯覚してしまうほどでした。

物理的な空間の制約を超えて、まるで別世界に迷い込んだような感覚を味わうことのできる空間で、一気に非日常へと引き込まれていきました。

インスパイアにおける「キューブ」の役割

キューブは、来場者がインスパイアのデジタルアートの世界を最大限に楽しめるように設計された「導入部」としての役割を担っています。エスカレーターに乗るわずかな時間で、来場者の意識を現実から切り離し、壮大なデジタルアートの世界へ没入する準備を整える役割を担っています。

「日常」から「非日常」へとスムーズに移行するための、心理的な準備としての没入体験を提供していて、このスムーズな移行のおかげで、続く没入体験への期待感がぐんと高まりました。

オーロラ(Aurora):圧倒的スケールがつくりだす非日常空間

「オーロラ」は、インスパイアが提供する数あるエンターテインメント施設の中でも、特に象徴的な存在のひとつとして位置づけられている、「没入型デジタル・エンターテインメント・ストリート」と称される独自の空間です。

施設内を移動する主要な動線上に位置するため、多くの人々の目に触れ、リゾート全体の魅力を高める役割を担っています。ホテルの宿泊客、カジノの利用者、アリーナでの公演を観に来た人々、ショッピング客など、目的を問わず誰もが無料で楽しめるため、幅広い層にアプローチしています。

その中心的なコンセプトは「新たな世界との出会い」であり、非日常的なデジタルアートを通じて、来場者に感動的で忘れがたい没入体験を提供することにあります。

来場者を覆いつくす圧倒的なスケール

オーロラに入った瞬間、まずその圧倒的なスケールに息をのみました。

全長150m、高さ25mの巨大なLEDスクリーンが、壁から天井までを切れ目なく覆い尽くしていて、一歩足を踏み入れただけで、自分の視界がすべて映像に支配されるような感覚に陥ります。

これは単なる巨大な映像作品ではなく、空間そのものが一つの作品になっています。四方を埋め尽くす映像は、まるで私たちをまるごと包み込んでくれるようでした。壁や天井との境目がないからか、一瞬で現実世界から切り離されたような、不思議な「非日常」に迷い込んだような感覚を味わいました。

感情に語りかけるショーコンテンツ

オーロラでは、毎時0分と30分に異なるショーコンテンツ(3分間)が上映され、それ以外の時間はアートコンテンツが常時映し出されています。

ショーコンテンツについては、各コンテンツに込められた世界観やメッセージを直感的に享受できるようなストーリーになっていて、3分間という短い時間で来場者の感情に強く訴えかけます。ストーリーに合わせて光や色彩が移り変わり、空間全体を包み込む壮大なサウンドが響くと、視覚だけでなく聴覚からもその世界に引き込まれていくのがわかります。

理屈を超えて、心の奥底に直接語りかけてくるような感覚でした。単なる映像の羅列ではなく、感情を揺さぶられるコンテンツと、圧倒的なスケールが融合することで、忘れられない感動体験が生み出されています。

ショーコンテンツ:アンダー・ザ・ブルーランド

「アンダー・ザ・ブルーランド」は、オーロラの広大な空間を最大限に活用し、来場者を雄大な海の世界へと誘うコンテンツです。巨大なザトウクジラが悠々と泳ぐ姿を中心に、深海の神秘的な生態系が鮮やかに描かれます。

ショーコンテンツ:オーロラ・エクスプレス

「オーロラ・エクスプレス」は、韓国ドラマや映画の音楽監督を務めたチョン・チェウン氏とのコラボレーション作品です。4つの章で構成された、仮想の特急列車に乗って、魔法に満ちた世界を旅するような没入体験を提供するコンテンツとなっています。

インスパイアにおける「オーロラ」の役割

オーロラの壮大なデジタルアートは、インスパイアのブランドイメージを象徴する「顔」としての役割を担っています。多くの人々の目に触れるメインストリートで訪れた来場者に強い印象を残し、「また来たい」「誰かにすすめたい」という感情を生み出します。

また、SNSでの拡散効果も期待でき、多くの人々がオーロラの映像や写真をシェアすることで、高い広告宣伝効果をもたらしていることが予想できます。

これらが、無料の共有スペースにも関わらず莫大な費用を注ぎ込み、壮大な空間演出を施している理由であると考えられます。

ル・スペース・インスパイア(Le Space INSPIRE):「物語」へ誘う没入型デジタルアート展示館

「ル・スペース・インスパイア」は、没入型コンテンツ展示の最先端を行く企業「ヒュンダイ・フューチャーネット」が、インスパイアに初めて導入した、宇宙がテーマのデジタルアート展示館です。「キューブ」や「オーロラ」がメインストリート、エントランスなど特定の場所の演出に特化しているのに対し、この施設は、観客を完全に異次元の世界へと誘う独立した空間として設計されています。

ル・スペース・インスパイアは有料施設であり、大人、子ども、シニアで料金が設定されています。週末や繁忙期は料金が上がることがあり、VIPエクスプレスという優先入場サービスも提供されています。

デジタルアートや新しい体験に興味を持つ人々が主なターゲットで、インタラクティブな要素やフォトジェニックな空間を求める若い世代や、家族連れ、カップルなどが多く訪れていました。

時空を超えた旅へ誘うデジタルアート空間

「Beyond the Cosmos」というコンセプトの通り、まるで時空を超えた旅に出たような感覚で、カラフルに彩られた18の空間を巡っていきます。

ここでは、よくあるプロジェクションマッピングを中心とした従来のデジタルアート展示館とは異なり、LED、ホログラム、キネティック、フォグ(霧)、インタラクションなど、新しい形のデジタルアートも多く導入されていて、より革新的な没入体験を味わうことができます。

五感で味わう臨場感

印象的だったのは、視覚だけでなく、五感すべてに訴えかけてくる点です。

「ボルカニック」の展示では、熱気を帯びた燃えるような香りが漂ってきて、まるで本物の火山のそばにいるかのような臨場感がありました。一方で「カラフル・フォレスト」では、爽やかな森の香りに包まれ、実際に森の中で過ごしているかのように心が安らぎました。

また、「イマジン」というエリアでは、来場者の体の動き(動作)に反応して、映像内のクリーチャー(想像上の生き物)が現れたり、来場者と一緒に踊るようなインタラクションな仕組みが組み込まれていました。

映像を「見る」のではなく、自分が物語の登場人物となって「体験」する感覚を味わうことできました。こうした新しい仕掛けが、この施設の没入感をより一層深いものにしています。

インスパイアにおける「ル・スペース・インスパイア」の役割

無料のオーロラが不特定多数の来場者をターゲットにしているのに対し、ル・スペースは「体験にお金を払う」ことを厭わない、よりエンターテイメントへの関心が高い顧客層を明確にターゲットにしています。

デジタルアートや新しいエンターテイメントに関心を持つ層、特に若年層や家族連れにとっての強力な集客フックとなっていると考えられます。

まとめ

本レポートでは、韓国・仁川に位置する「インスパイア・エンターテインメント・リゾート」が目指す「次世代型エンターテインメント・リゾート」の核となる、没入型デジタルアート空間についてご紹介しました。

視察を通じて、同施設が「没入型デジタルアート空間」を単なるアトラクションではなく、リゾート全体の体験価値を高めるための戦略的な要素として位置づけていることが明らかになりました。

「キューブ」で日常から非日常への心理的な準備を促し、「オーロラ」で圧倒的なスケールと感動的なコンテンツで非日常体験を提供。さらに「ル・スペース」では、宇宙をコンセプトに構成された異次元の世界へと誘い、五感で味わう臨場感とともに、より深いレベルでの没入型エンターテイメントを求める層に応えています。

インスパイアは、これらの没入型デジタルアート空間を施設の主要動線上に配置し、ホテル宿泊客やカジノ利用者など全ての来場者に向けた付加価値の高い体験を創出しています。単なる設備や施設を提供するだけでなく、「心を動かす非日常体験」を中核に据える戦略こそが、次世代IRの集客とリゾート全体の魅力を高める鍵であることを示唆しています。


この記事を書いた人

佐藤涼太郎 / 丹青社 マーケティング部・「場と人」副編集長

2023年丹青社に入社し、WEBマーケティング活動に従事。2024年にWEBメディア「場と人」の立ち上げに携わり、現在は同メディアの運営およびコンテンツ制作を行っている。

この記事を書いた人

佐藤涼太郎 / 丹青社 マーケティング部・「場と人」副編集長