効果的なスポンサー・アクティベーション戦略

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近年、スポンサーシップは企業にとって重要なマーケティング戦略の一環となっています。米調査会社ニールセンの調査によると、スポンサーシップによってファン層の購買意欲が平均で10%上昇したといいます。スポンサーシップは単なるブランド認知の手段に留まらず、売上への好影響をもたらすパワフルなツールとなっているようです。本稿では、スポンサーシップを活用して効果的なアクティベーション戦略(権利を活用したマーケティング活動等)を展開している海外事例に焦点を当て、その概要や特徴を解説します。

※このレポートは2023年8月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

NBCスポーツが無料ファン・イベントを主催しリーグ・パートナーらとともに存在をアピール

イングランド・プレミアリーグ / アメリカ

イギリスのプレミアリーグとアメリカのスポーツ中継会社が協力

2023年1月、米スポーツ中継会社NBCスポーツとイギリスのイングランド・プレミアリーグがタッグを組み、米フロリダ州オーランドのテーマパーク(ユニバーサル・シティウォーク)で2日間にわたる大規模な無料ファン・イベントを開催しました。

目的は、米国におけるプレミアリーグ(イングランドのプロサッカーリーグ)のファン拡大で、これまで7回、全米各地で開催されてきました。8回目となる今回は、2日間で参加者数9,600人以上。その模様は番組として中継されました。当日の様子は動画をご覧ください。

家族で楽しめるコンテンツが盛りだくさん

イベントでは、8つの巨大なLEDスクリーンによる試合のライブ・ビューイングや、無料の体験型イベントが中心となりました。リーグ・パートナーによるアクティベーションでは、サッカーのゲームで知られるEAスポーツが提供する「FIFA23」のゲーム体験や、ナイキが提供するサッカー体験会などが、特に若い世代に人気を博しました。このほか、プレミアリーグのクラブ・マスコットやトロフィーとの記念撮影、エアブラシ・タトゥー、タレントとの交流会、選手訪問、無料グッズの配布など、ファンにとって魅力的な要素がたっぷりと盛り込まれました。

テーマパークの雰囲気を活かした華やかな装飾

イベント全体の装飾は、会場となったユニバーサル・シティウォークの色合いに合わせ、「まるでファン・フェスティバルがパーク内に常設されているかのような」まとまりのある雰囲気に仕上げられました。

また、プレミアリーグは人種差別問題に長年コミットしていることから「人種差別が入る余地はない(No Room For Racism)」とデザインされた壁を設置。参加者はキャンバスにサインすることで、公平性や多様性の推進に賛同しました。この様子をはじめ、各体験や記念撮影の写真や動画は、参加者のSNSなどで広く拡散されました。

子どもたちも参加しやすいテーマパークで開催されたファン・イベント。華やかな装飾や撮影スポットの設置など、番組中継やSNSでの拡散を意識した内容にも注目です。

Premier League Fan Fest in Orlando / アメリカ(フロリダ州) / 開催時期 2023年1月21〜22日

F1の「伝説」に迫る注目度抜群の企画展でタイヤ・メーカーが技術力を発信

フォーミュラ1 / スペイン

F1タイヤのグローバル・パートナーがサポート

2023年3月24日より、スペインの首都マドリードの大規模展示会場イフェマ・マドリッドで、F1の伝説的なチームや人物から提供された未公開の遺品や限定品を幅広く展示する企画展が開催されています。

スポンサーは、F1のグローバル・パートナーであるタイヤ・メーカーのピレリ。イタリア・ミラノに本拠を構える世界第5位のタイヤ・メーカーです。ブリヂストンに代わって2011年からF1に単独でタイヤを供給しています。本展は、最新テクノロジーを駆使した大規模なインタラクティブ・ディスプレイを用いて、F1の過去、現在、そして未来に焦点を当てています。まずはトレーラーをご覧ください。

工夫を凝らした展示でF1の魅力を五感で体感

来場者は、まず「かつてF1で(Once Upon A Time In Formula 1®)」を通り、未公開の写真を見ながら、F1の最も象徴的で決定的な瞬間を体験します。

続いて、F1ファクトリー内を再現した「デザイン・ラボ(Design Lab)」では、ピレリの最先端技術や、F1タイヤができるまでの過程など、現代の設計、テスト、製造工程を学ぶことができます。その先にある、サーキットをイメージしたデザインが印象的な「ドライバーと対決(Drivers and Duels')」は、伝説のドライバーやレースを回顧するコーナーです。

さらに、「デザインによる革命(Revolution by Design)」では、F1がこれまで経た画期的なイノベーションや、その先にある新しいテクノロジーを紹介。そして、ショーのクライマックスとなる「ピット・ウォール(The Pit Wall)」では、F1の歴史の中で最も偉大な瞬間を体感できる圧巻の没入型映像体験が待っています。

ファン垂涎の貴重な展示も満載で見応え十分

展示のハイライトは、2020年に開催されたF1世界選手権バーレーンGPでクラッシュしたロマン・グロージャンのマシン、ピエール・ガスリーの「モンツァの奇跡」優勝マシン、スクーデリア・フェラーリのパワーユニットの初公開などです。

展示の設計は、著名なキュレーターやアーティスト、映画製作者が協力し、数年の歳月をかけて推進されました。壮大なオーディオビジュアルデザイン、貴重な写真や映像、彫刻作品、象徴的なグランプリカーなどを組み合わせたこの展覧会は、熱心なファンから車好きの子どもまで、多くのF1ファンに忘れられない経験を提供しています。

魅力的な展示の中で、ピレリの技術やタイヤの製造過程を伝え、F1の華々しい世界の中でのタイヤが果たしている役割、ピレリの貢献度をアピールしています。

Formula 1® Exhibition / スペイン(マドリード) / 開催期間 2023年3月24日〜7月16日(当初は6月4日までの予定だったが好評を受け延長) / チケット 19.99ユーロ〜

アディダスがNBAのイベントで「世界的な海洋環境保護ムーブメント」をPR

NBA / アメリカ

環境保護団体とのパートナーシップに基づくアディダスの取り組み

アディダスは2015年より、環境保護団体パーレイとパートナーシップを築き、海洋プラスチック廃棄物のアップサイクル素材を活用した商品開発、海洋環境教室の提供、海洋環境保護を目的とした資金調達ランニング・イベント「ラン・フォー・ザ・オーシャンズ(Run for the Oceans)」の実施など、幅広い活動を展開しています。コラボの様子はこちらがわかりやすいです。

なかでも話題となったのは、北米プロ・バスケットボール・リーグNBAのイベントでのコラボ企画です。2018年のNBAオールスター・ウィークエンドに合わせ、アディダスは独自のイベント「アディダス 747 ウェアハウス・ストリート」を開催。パーレイとともに海洋プラスチック廃棄物に関する展示や販売を行い2日間で約18,000人もの来場者を集めました。動画はこちらです。

イベントには豪華なアーティストやプロスポーツ選手が参加

本イベントは、アディダスの信念「バスケットボールとは単なるゲームではなく、創造性、革新的な工夫、そして音楽やファッションによって支えられているコミュニティである」がコンセプトです。人気のDJやラッパーによるライブ、音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスらが登壇するディスカッション、スヌープ・ドッグらによるラップ・バトルなどのほか、イェ(カニエ・ウェスト)による即興デザイン・セッションも開催。豪華アーティストやプロ選手が会場を盛り上げました。

コラボ企画では環境保護を訴える教育的な展示にも注力

イベントのなかで行われたパーレイとのコラボ企画では、スポーツやアートのクリエイターが集まり、環境保全への関心を高める取り組みが行われました。瀕死の危機にあるサンゴ礁を大画面で映す没入型インスタレーションの展示、海洋プラスチックごみを原料としたサステナブル・シューズの限定販売、シューズ製造過程の一部(材料や機械)展示、不要なプラスチックを材料としたDIYのイベント記念品提供など、いずれもアディダスのブランドイメージ向上をアピールするものとなりました。

環境意識の高いアディダスならではのイベントです。華やかな音楽やファッションで人々の注目を集めながら、環境保護に対するメッセージもしっかりと発信しています。

ADIDAS X PARLEY AT 747 WAREHOUSE ST ※イベント「747 Warehouse St」の一部 / アメリカ(カリフォルニア州ロサンゼルス) / 実施期間 2018年2月16〜17日

Researcherʼs Comment

ご紹介したアクティベーション事例はどれも複数の団体が連携し、より多くの人を呼び寄せ、メッセージを伝える力を発揮しています。団体の枠を超えた連携によって、新たなアイデアやリソースを集めやすくなるだけではなく、子どもへの露出を増やす、スポーツのファンに技術を伝える、ESGの取り組みをアピールするなど、単独で取り組む以上に効果的なプロモーションが実現できているように思います。売上にもよい影響ももたらしているかもしれません。(丹青研究所 国際文化観光研究室)


この記事を書いた人

丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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