サステナビリティで魅力を向上させたテーマパーク

エンターテイメント |

昨今、積極的にサステナビリティに取り組む動物園や水族館、遊園地が増えています。 今回は海外のテーマパークの中でも、「企業の社会的責任を果たす」というCSRの域を超えて、サステナブルな取り組み自体が施設の魅力を向上させている事例をご紹介します。

※このレポートは2024年10月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

文化遺産と特別保護区をまるごとテーマパークに

ロシェ・ミストラル / フランス

文化遺産保護活動家が選んだ“テーマパーク”という手段

フランスのプロヴァンス地方にあるロシェ・ミストラルは、千年の歴史があるバルベン城を中心に、周囲の約400haの低木林、および動植物の特別保護区をも有した大規模なテーマパークです。美しい景観と歴史的建造物を舞台に、12のショーやさまざまなアトラクションを楽しむことができます。

手掛けたのは文化遺産保護活動家のヴィアニー・ダランソン氏。過去にも古城を購入して改装し、そこで歴史をテーマにしたショーを創り出したことのある実力者です。ダランソン氏は幼少期に家族と度々訪れたプロヴァンスの自然や文化などの遺産を新しい世代に伝えるべく、2019年にバルベン城を買収。2021年にロシェ・ミストラルを開園しました。

娯楽の中に未来に残したい「文化」「自然」「場所」をつめこんで

遺産保護のために作られたテーマパークなだけに、エンターテイメントの内容は地域の文化や自然の継承につながるものばかり。ショーは、バルベン城の歴史から着想を得た騎士の剣術パフォーマンスや庭園での音と光のショー、地元の製粉職人を主人公にした演劇などが上演され、登場する音楽やダンス、衣装や料理などもプロヴァンス地方のもので構成されています。

城の周りでは、生物多様性を保護し、プロヴァンス農民の技術を守るためのプロジェクトを展開。例えば、特産種であるブドウ、オリーブ、ラベンダーなどの植栽や、養蜂を行っています。今後は、プロヴァンス地方のアルルメリノ種の羊などの放牧も計画しています。

顧客、そして業界内部でも高まるサステナブル意識

世界では今、外出先を選ぶ際に、「そこがサステナブルかどうか」を考慮に入れる人が増えています。世界最大級の宿泊予約サイト、ブッキング・ドットコムが今年実施したサステナブルな旅行に関する調査の結果報告「サステナブルトラベルレポート2024」によると、世界の旅行者の75%が「今後12ヶ月間に、よりサステナブルな旅行がしたい」と回答。

そのような中でロシェ・ミストラルは、全国レジャー・アトラクション・文化施設組合(アミューズメント施設のほか私立博物館や城館など様々な施設を運営する約600の企業が加盟する仏業界団体)による「サステナブル・エンターテイメント・ラベル」を取得。この認証ラベルは、早くから社会的環境的課題に取り組んできた10施設と同組合が共同で設置したもので、「環境・社会・経済」を柱とした18の指標と120の基準からなる評価枠組みです。こうした動きからは、業界内部でのサステナビリティへの意識・関心の高まりがうかがえます。

ロシェ・ミストラルの開園は、プロヴァンス地方の文化や自然という遺産を後世に継承するための壮大なプロジェクト。テーマパークをはじめとするアミューズメント施設、観光名所、文化施設などがサステナビリティを強く意識し始めているなか、サステナブル活動の一つである「地域への貢献」をエンターテイメントのかたちで実践し、来場者にユニークな体験を提供しています。

● Rocher Mistral / フランス(プロヴァンス)/ 2021年オープン

ドイツ最大のテーマパークが日々の運営において実践するサステナビリティアクションとは

ヨーロッパ・パーク / ドイツ

アトラクションメーカー・マックライド社が運営する人気テーマパーク

ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州ルストにあるヨーロッパ・パークは、100以上のアトラクションやショーなどが楽しめる同国最大のテーマパークです。2022年の年間来場者数は約600万人で、ヨーロッパではディズニーランド・パリに次ぐ第2位。ジェットコースターなどのアトラクションの設計・製造を手掛けるマック・ライド社の一族が経営しています。

約95haの敷地は20のエリアで構成され、うち17エリアはヨーロッパの国と地域がテーマになっています。各地域の名物料理を振舞うレストランやカフェもあり、ヨーロッパ旅行をしている気分になれるのも魅力の一つです。

環境先進国ドイツでは、サステナブルアクションは当たり前のこと

ドイツは環境先進国といわれ、国民の環境意識も世界的に高いことで知られています。ドイツ政府は2045年までにカーボンニュートラル(排出する温室効果ガスを実質ゼロにすること)を達成するという目標を掲げており、国民の間でも、政府がウェブサイトに公表しているツールを使って、自分の暮らしから排出される二酸化炭素の量を計算するのが流行しているようです。そんなドイツでは、サステナブルアクションは顧客に選ばれるために取り組まなければならない必須課題であり、同時に顧客を魅了するためのチャンスでもあるのかもしれません。

3日間で10,000人が訪れる、サステナビリティについて学べる科学フェスティバル

ヨーロッパ・パークは20年以上前から年に一度、数日間にわたって科学フェスティバル「サイエンス・デイズ」を開催。昨年(2023年)は開催3日間で約10,000人の来場者数を記録しました。今年10月開催のサイエンス・デイズでは、科学者や技術専門家が85のブースを出し、科学やテクノロジーにまつわる展示や実演、実験を子どもたちに提供する予定です。

中には、節水方法を学べる実演や、できるだけ少ないエネルギーで遠くまで移動する方法を考えるアクティビティなど、持続可能な未来に向けて学べるものも数多く用意。また、壮大なスケールの科学実験ショーなど、エンターメント要素たっぷりのものもあります。

アトラクションや飲食スペースでも欠かさない環境配慮

常設のアトラクションや飲食施設での環境配慮も欠かせません。1975年のオープン以来、化石燃料で動いていた蒸気機関車のレプリカは現在、リチウムイオンバッテリーと組み合わせた電気モーターで動いています。

レストランやカフェでは、使い捨てカップの使用を廃止しています。敷地内のホテルにおいても、朝食ビュッフェで提供する食品の80%以上は地域のサプライヤーから仕入れています。また、パーク内のゴミは20項目に分別し、専門業者と連携することでリサイクル率を向上させた結果、数年間で廃棄物の総量を半分以上減らすことに成功しました。ドイツ・ホテルレストラン協会協会は同パークの環境経営に関して、最高評価のゴールドステータスを授与しています。

ドイツ最大のテーマパークであるヨーロッパ・パークは、科学館などで行われることの多い環境教育、実験やサイエンスショーを、エンターテイメントのひとつとして組み込んでいます。また、アトラクションやレストランなどのすべての場面で、省エネや廃棄物減量に取り組み、その内容を報告するサステナブルレポートを公開しています。

Europe-Park / ドイツ(バーデン=ヴュルテンベルク州ルスト)/ 1975年オープン / 敷地面積 約95ha

動物園は「動物福祉」と「教育」がキーワードに

エバーランド / 韓国

70年代にサファリパークを始めた、時代の先駆者

韓国の龍仁市にあるエバーランドは1976年にサムスン物産が設立した、遊園地、動物園、植物園、フェスティバルなどが一体となった複合施設。来場者数ランキングで国内1位になる年も多い、人気の観光スポットです。

中でも動物園エリアは、開園時からライオンやトラ、キリンの生態をバスから見るサファリ形式を取り入れ、韓国のレジャー文化を牽引してきました。2005年にズートピアとして動物園エリアをリニューアルし、現在は200種類以上、2000頭以上の動物を飼育しています。

生物多様性の重要性と保全について学べる教育プログラム

そんな業界のパイオニアが近年力を入れているのが、環境保全や動物福祉のメッセージを強く発信することです。特に、動物や植物について学べる教育プログラムを充実させています。例えば、「イーキューブスクール」という子ども向けのプログラムでは、月替わりで同園の植物や動物を実際に観察しながら、分類、生物多様性、進化、共生などについて学び、観察の記録をまとめた一冊のオリジナル電子ブックを作ります。キリンの音声を録音したり、トラとライオンを実際に観察しながら分類の概念を知ったりと、本を読むだけでは得られない学びを体得できます。

開発にはアメリカの教育テクノロジー開発団体のワンダーランド・エデュケーションの韓国支部や、韓国環境教育研究院なども参画しています。教育プログラムはほかにも、小学生~高校生を対象とした、地球温暖化が人間と動物に与える影響について学ぶ学校団体向けプログラム「生態環境教室」や、同園が飼育する絶滅危惧種のシベリアトラの生態について、実際に観察しながら知る「ズートピア・タイガーアカデミー」などがあります。

世界最高水準の「米国動物園・水族館協会」の認証

2019年には世界最高水準の動物福祉運営をしている施設に与えられる「アメリカ動物園・水族館協会(AZA)」の認証を取得。東アジアで認定されているのは、同施設を含めて3か所のみです。

ちなみに、世界最大の旅行口コミサイトであるトリップアドバイザーは動物愛護に関する独自ポリシーをもうけ、各アミューズメント施設が基準に満たしているかどうかを明記しています。アミューズメント施設のサステナブルな取り組みへの姿勢は、今後さまざま場所で見えやすくなっていくでしょう。

エバーランドの動物園エリアは、1976年の開園当時から先駆的な取り組みで業界をリードしてきました。現在は生物多様性や環境保全、動物福祉などについて学べる体験型の環境教育に力を注いでいます。特に「イーキューブスクール」の、毎月異なる内容を実施するプログラムは、子どもたちが何度も繰り返し訪れるきっかけにもなりそうです。

에버랜드(Everland)/ 韓国 / オープン年 1976年

Researcherʼs Comment

レジャー業界においても積極的なサステナブルアクションの実践が求められるなか、今回のレポートでは、さまざまな角度からサステナビリティを推進することで施設の魅力を高めている海外のテーマパークの事例を紹介しました。

サステナブルといえば環境問題に関することがまず思い浮かびがちですが、ロシェ・ミストラルが取り組む、その土地の持つ伝統や文化を広めて後世に残す「地域貢献」も、立派なサステナビリティ活動です。一方で、ヨーロッパ・パークのように、毎日のパーク運営によって継続的に「環境保全」に寄与する、イベント内において環境について学べるアクティビティを用意するという実践方法も参考になるでしょう。また、「生態系保護」の一助になることをめざすエバーランドは、動物園エリアを持つテーマパークとして、生物多様性を学べる充実した教育プログラムをもち、環境保護を来場者向けのアクティビティとして提供。未来を担う子どもたちに、生き物への興味関心や守る気持ちを抱かせるには大変効果的な方法であると考えられます。

いずれの事例もアトラクションやショー、イベントなどエンターテイメントのかたちで持続可能性のメッセージを発信している点は注目したいポイントです。普段はつい敬遠してしまう「社会課題」に関する知識を「アミューズメント施設」で楽しみながら身に付けてもらうことで、その後の考えるきっかけにつなげられるのではないでしょうか。テーマパークをはじめとするアミューズメント施設は、未来をポジティブに考える時間を提供する場となる可能性があるはず。アミューズメント施設だからこそできる方法で、サステナブルの輪を社会全体に広げていければよいと思います。(丹青研究所 国際文化観光研究室)


この記事を書いた人

丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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