Z世代、ミレニアル世代を魅了する専門店とは

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デジタルネイティブと呼ばれるZ世代やミレニアル世代は、リアル店舗に何を求めているのでしょうか。今回は老舗ハイブランドのシャネルやバーバリーが、これからの消費の中心となる層にどうアプローチし、人気を博しているのか、その戦略を体現する店舗を紹介します。

※このレポートは2023年5月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

アメリカで浸透するセルフ形式。販売員に気を遣わずに、シャネルのコスメを試し放題

アトリエ ボーテ シャネル / アメリカ

Z世代とミレニアル世代とは

Z世代とは1990年代半ばに生まれ、子どものころからデジタルデバイスに囲まれている世代です。ミレニアル世代は1981年以降に生まれ、2000年代に成人・社会人となる世代で、インターネット環境の整備が飛躍的に進んだ時代に育った世代をさします。共にデジタルを使いこなし、「リアルでしかできないこと」と「デジタルで効率よく済ませること」が消費行動にもはっきりと表れています。

リアル店舗ならでは=商品を試せる

この二つをうまく融合せ、Z世代とミレニアル世代の人気を集めているのが、フランスの高級ブランド、シャネルが2019年にアメリカのニューヨーク市ソーホー地区にオープンした「アトリエ ボーテ シャネル」です。ここはシャネルの化粧品を好きなだけ試せます。

サロンのような空間に、口紅やリップグロス、アイシャドーなどがずらりと並んでいます。

それらにはすべて一回分のサンプルが用意されており、顧客は好きなだけサンプルを集め、鏡の前に座ってゆっくりと試すことができます。予約不要で、利用料もとられません。

「その接客は必要?」を問い直す

もう一つ特筆すべきはセルフガイド形式ということです。顧客は自分でアトリエ内を回り、気になる化粧品を試します。シャネルのスタッフは積極的におすすめしたりせず、顧客が自らアドバイスを求めてくるまで話しかけないと徹底しています。2022年末時点では、アトリエ ボーテ シャネルのサイトでは複数のメイクのマスターアーティストと様々な美容レッスンのメニューの紹介が行われています。内容は、集中メイクレッスン45分が70ドル、メイクアップレッスン90分が130ドル、ほかにも皮膚に関する相談やフレグランスの専門家とその人にぴったり合った香りを探すフレグランスディスカバリーといったメニューなども有料で展開されています。

従来のデパートのコスメカウンターでは化粧品を試す場合、販売員がつきっきりで相手をすることがほとんど。顧客は試せば試すだけ、買わないといけない気持ちが高まり、思いっきり試せないというのが正直なところでしょう。

スタッフとの対面コミュニケーションは時に顧客にとって負担になります。近年、アメリカでは至る所でセルフレジ化が進んでいるのも、できることなら、人と話さずにすませたいという心理が働いているのでしょう。Z世代とミレニアル世代ではこの傾向が顕著です。アトリエ ボーテ シャネルでは商品を買いたくなったら、顧客自身のスマートフォンで購入手続き、またはその場で現金決済を行い、商品受け取り口から手にするだけで済むのです。

ハイブランドの敷居の高さと対面によるコミュニケーションは、若い世代にとってはなかなかのハードル。セルフ形式のストレスフリーと、希望によってディープなアドバイスを得ることができる、このバランスが新世代にとってのポイントになると思われます。

Atelier Beauté CHANEL / アメリカ(ニューヨークSOHO地区) / オープン年 2019年

ソーシャルメディアと融合した店舗若者の主要アプリ「ウィーチャット」と共同開発

バーバリー オープン スペーシズ / 中国

ソーシャルメディアが情報源

Z世代とミレニアル世代ともに、ソーシャルメディアが主要な情報源になっています。彼らが「新商品について知るメディアが何か」と問われれば、テレビでも、ウェブサイトの広告でもなく、彼らが日常使っているソーシャルメディアと答えます。企業にとって、顧客のソーシャルメディアに露出し続けられるかはマーケティングで最も重要なカギとなります。

英国高級ブランドのバーバリーは、ソーシャルメディアとリアル店舗がシームレスに融合する「ソーシャルリテールストア」という新しいコンセプトを発表。2021年中国深圳市に「バーバリー オープン スペーシズ」をオープンしました。

バーバリーを体験するほど、店舗もSNSもより楽しめる

顧客はまずメッセンジャーアプリ「ウィーチャット」のバーバリーの専用プログラムに登録。店内外で効率よく買い物でき、様々な特典プログラムにも参加できるようになります。たとえば、ウィーチャット上に気になる商品があれば、バーバリー オープン スペーシズの試着室を予約し商品を取り置きすることが可能です。さらに、試着時に流す音楽をプレイリストから選べるという楽しみもついてきます。

また、店頭にきてイベントに参加したり、商品のQRコードを読み込んだりすると「バーバリーソーシャル通貨」が与えられます。通貨がたまると、ウィーチャット上では限定コンテンツにアクセスできたり、リアル店内では併設されたカフェの特別メニューにアクセスできたりします。このようにウィーチャットのプログラムを店内でも店外でもシームレスに楽しみ続けられるのがポイントです。

今回、バーバリーが独自のアプリを開発するのではなく、中国の若者にもっとも浸透しているメッセンジャーアプリ「ウィーチャット」のテンセント社と共同開発したことも興味深い点です。ターゲットが日常的に使うアプリと連携したほうが、自分たちだけのアプリに来てもらうよりも利用率が上がると考えたのでしょう。

2006年からデジタルネイティブ世代をターゲットに

バーバリーは2006年に「ファッション業界における“デジタル進出”の先駆者となる」と宣言し、デジタルネイティブ世代をターゲットとした施策を積極的に取り組んできた一社です。2010年にはファッションショーをライブストリーム中継し、世界中から視聴者がフェイスブック上で意見交換するイベントを実施。その後もバーバリーのトレンチコートを着た人だけが参加できるオンライン上のコミュニティを作るなど、デジタルを活用したファンコミュニティづくりに定評があります。

バーバリーはデジタルとローカライゼーションを戦略上、重視しています。2020年度は減益となったものの、2021年度第3四半期には中国、韓国、アメリカなどで再び増益に転じています。この要因の一つにはデジタルパフォーマンスの成功があると見られています。

デジタル戦略を進めて15年目、これからのバーバリーのあり方を示すものとしてオープンした店舗と考えられるでしょう。フィジタルという点からも、今後、こういった店舗がスタンダードの一つになっていくのではないでしょうか。

Burberry Open Spaces / 中国(深圳市) / 売り場面積約 540㎡

赤字から黒字へ大転換るエンタメ施設。新しい映画館スタイルが韓国で広がり始める

ロッテシネマ / 韓国

動画配信の浸透で、映画館改革進む

家で動画配信された映画を見ることが当たり前になり、映画館は「映画をただ鑑賞する場所」からの脱却を余儀なくされています。韓国では、寝ながら映画を見ることができるベッド型映画館、森の中で映画を見た気分になれるシネ&フォレ」、プール映画館、アッと驚くアイデアの映画館が多くあります。

映画鑑賞、プラス多様なエンタメ体験

チェ社長は「Z世代とミレニアル世代のカルチャーライフを先導する企業になる」と打ち出し、映画館を映画だけではなく、多様なジャンルの芸術を楽しむ場所に変えていくプロジェクト「ロッシープル」を発足させました。たとえば、2022年10月に実施したハワイアンをテーマにしたプログラムでは、ハワイの映画上映、専門家によるトークイベント、フラダンスのレッスン、ハワイのカクテル提供など、多様なカルチャー体験を提供しています。

世界最大のスクリーンの映画館を新たに

また、家では味わうことのできない映画鑑賞の体験を提供できるように、最新鋭の技術への投資も行っています。2022年11月にはソウル市にスーパープレックス特別館をオープン。世界最大のスクリーンに、国内初のデュアル6Pレーザー映写機を入れ、既存映写機の1.6倍以上の明るさを実現しました。音響も国内最大の165個のスピーカーを設置し、臨場感のある鑑賞体験で映画館の存在感をさらに高める計画です。

映画館は専門館ならではの付加価値の高い映像体験と、新しいカルチャーを生み出す場をめざさなくてはならない、という韓国らしい勢いを感じさせる戦略です。新世代の映画ファンの拡大につながるでしょうか?

● ロッテシネマ / 韓国 / 運営者ロッテカルチャーワークス

Researcherʼs Comment

シャネルやバーバリーといった伝統あるハイブランドが次世代の消費者の開拓と獲得のために、「店舗」を新しい体験の場として戦略的に展開していることは、意外であるとも納得できるとも思えます。デジタルネイティブをターゲットとする以上、店舗戦略はデジタル戦略と表裏一体となっていくことはまちがいないでしょう。ストレスフリーであること、そしてインタラクティブ性や多様なカルチャー要素との組み合わせ、それらによって消費者とともに何かを生み出していく創造性、そういったものが次世代を惹きつける要素になるのではないでしょうか。「自分らしさ」と「〇〇だけじゃない」が、新世代を魅了する店舗のキーワードになるのかもしれません。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

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丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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