「食」で差別化!最新の海外ショッピングセンター

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食の専門売場を備えた関東最大の無印良品が入居する「港南台バーズ」、キユーピーの体験型農業施設「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」が隣接する「ふかや花園プレミアム・アウトレット」など食が誘客するSCが増えています。では世界に目を向けるとどうでしょうか?「食」をテーマに、近年オープンした海外のSCをリサーチしました。

※このレポートは2023年8月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

世界遺産「フランスの美食術」をあらゆる角度から味わう

食とワインの国際会館 / フランス

フランスの食を象徴するワインの生産地に生まれた超大型施設

フランス中東部に位置するディジョンは、ワインの産地として知られるブルゴーニュ地方の首府。そんな街に、2022年5月にオープンしたのが食とワインの国際会館です。1204年に設立された旧総合病院の歴史的建造物と現代建築を融合させたデザイン性の高い空間は、伝統を今に伝える施設のコンセプトにもぴったりです。

広大な敷地内には、公共施設となる文化・観光センターをはじめ、レストランや、ワインや肉、魚などの専門店などが並ぶ商業エリア、料理学校、テイスティングスクール、ミュージアム、さらには4つ星ホテル、住居エリアまで備え、国内最大級の超大型複合施設となっています。

食への学びを深める施設やプログラム

人生の節目を手料理で祝う「フランスの美食術」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのを機に生まれた施設というだけあり、フランスの食を多角的に学び、味わえる施設やプログラムが満載です。

ブルゴーニュ・ワインスクールでは、「ブドウ畑を取り巻く自然環境」や「ヴィンテージ効果」「料理とワインのペアリング」など、ワインに関するさまざまなテーマを設けたワークショップを開催。また、ミュージアムは、次の4つのテーマから構成されています。社会学、人類学、歴史的観点からフランスの美食を紹介する「ア・ターブル」、料理時にいかに五感を使っているか楽しく紹介する「アン・キュイジーヌ」、地域のワインおよびワイン畑のクリマを紹介する「シャペル・デ・クリマ」、ピエール・エルメ社の後援のもとフランスのパティスリーの特徴を紹介する「セ・パ・デュ・ガトー」です。常設展と企画展を開催しています。

地域の飲食店や小売店と連携

レストランやショップもハイレベルなものばかりです。ミシュランの星付きシェフ監修のブルゴーニュ伝統料理を提供するレストランやデリカッセンは、常に多くの人で賑わっています。また、会館の中心部にあるマルシェには、地元の新鮮な魚介や野菜、有名店のチーズやシャルキュトリなどがずらりと並び活気があふれています。

特に人気なのが、3フロアに渡り展開されている会館のワイン庫。3,000種あまりのワインが貯蔵されており、うち約250種はグラスワインで5ユーロから提供中です。中庭のテラスにはテーブル席もあり食事も可能で、ワイン好きにはたまらない空間となっています。

美食の都であるディジョンを広く深く発信する大規模なプロジェクト。フランス料理同様、世界遺産に登録されている「和食」でも応用ができそうです。

● 食とワインの国際会館 / フランス(ディジョン) / オープン 2022年5月6日(2017年着工) / 延床面積 70,000㎡ / 敷地面積 6.5ha(うち、公共の緑地が1ha) / 施設設計 Anthony Béchu 建築事務所 / 空間デザイン Abaque / 美食館エリア設計・運営 S-Pass、Abaque / プロジェクト総予算 2億5,000万ユーロ

郊外の大型モールに新設されたフードコートの新しい形

バーリントン・モール / アメリカ

地域ならではの食を体感できるグルメ空間

バーリントン・モールは、2022年にリニューアルオープンしたばかりのスーパー・リージョナル・モールです。リニューアルに際して特に注目されているテナントが、地域ならではの食を体感できるコモンクラフト。これは単なるレストランではなく、特色の異なるブリュワリーやディスティラリー(蒸溜酒製造所)、ワインバーなどが集結し、独自のドリンクやフードメニューを提供しています。

フードコートにも似ていますが、コモンクラフトと外部ブランドが個別にリース契約を結びます。コモンクラフトによるセレクトが楽しめ、あまり知られていないようなブランドに触れられるといいます。

地元に根付くブリュワリーやバーが集結

コモンクラフトに集結するのは、モールが位置するマサチューセッツ州やその周辺地域に拠点を置くブランドの数々。地元メディアによる取材動画はこちらです。

ディーコン・ジャイルズ蒸留所」は、禁酒法時代にもぐり営業をしていたバーを表す“スピークイージー”をコンセプトとした店。つくり込まれた豪華なインテリアと薄暗い照明の中、ドライジンやスパイスラム、ウォッカなどが楽しめます。受賞歴のあるクラフトカクテルメニューも人気です。

「イルヴァージ」では、マサチューセッツ州を拠点とする輸入販売会社ビンヤード・ロードによって厳選されたワインを提供。職人的な生産者に特化した小規模ワイナリーの希少な銘柄を揃えています。このほか、地元密着のクラフトビール醸造所「アイドル・ハンズ・クラフト・エール」や、地元の酵母のみを使用し、化石燃料でなく木材を燃料にビールをつくる「ハーミット・スラッシュ」などのブリュワリーも名を連ねます。

フードコートと専門店のいいとこどり

コモンクラフトでは、ドリンクに合わせてフードメニューも豊富に揃えています。フードメニューは各店舗に用意されており、バーテンダーに直接オーダーするほか、QRコードでスマートフォンから注文も可能。そのため、フロアを歩き回るウエイターがいないのも特徴です。店内のテーブル席のほか、ビアガーデンスタイルのパティオもあり、どの店でドリンクを購入しても好きな場所で飲食できるようになっています。カジュアルなフードコートと、個性あふれる専門店のいいとこどりとも言えるユニークな施設です。

従来のフードコートとは少し違う、新しいグルメ空間。個性豊かな地元の味を一度に楽しめるのは住民にも観光客にも魅力的で、好きな場所で飲食できるのもユーザーフレンドリーです。

Burlington Mall / アメリカ(マサチューセッツ州) / オープン 1968年 / リニューアルオープン 2022年 / 総面積 約122,000㎡

環境意識の高い生産者と共に質のよい食文化を発信

ラ・フェリシテ / フランス

年齢や国籍問わず人々が集う注目スポット

ラ・フェリシテは、パリ4区のセーヌ川沿いに位置する旧庁舎を改修増築した注目の複合施設です。分譲の高級住宅と低所得者向けの低価格賃貸住宅、162室の5つ星ホテル、404床のユースホステル、オフィス、小売店、ギャラリー、フードマーケット、保育施設、都市型農園などが併設されており、地元の人はもちろん国内外の観光客にとっても利用価値の高い、パリ随一の文化の発信地となっています。デベロッパーのエメリージュによる動画はこちらです。

意識の高い生産者から良質で公正な食品を仕入れる

さまざまな施設が盛り込まれたラ・フェリシテですが、特に注目したいのがグルメテナントであるテロワール・ダヴニールです。直訳すると「未来の産地」を意味するこの空間は、521㎡の広々としたフードマーケットと食料品店、ベーカリーカフェから構成されています。

パリ市内に複数店舗を展開するテロワール・ダヴニールは、徹底したポリシーで知られています。乳製品や魚、肉、野菜などの生鮮食品は、生産者や漁師たちから直接夜間の内に引き取り、翌日の午前8時までに各店舗に配送するというルールを設け、鮮度には徹底的にこだわっています。また、国内外で300あまりある取引先は、生物多様性を考慮し伝統的なノウハウを守る農家や、持続可能な漁業を模索する生産者に限定しています。

近年トレンドとなっている都市農園を屋上に設置

この複合施設のもう1つの特徴的なスポット、屋上の都市型農園は、フランスにおける都市農園のパイオニアであるスー・レ・フレーズが手掛けています。スー・レ・フレーズは、パリ中心部の老舗百貨店ギャラリー・ラファイエット・パリ・オスマンにある屋上庭園「ジャルダン・ペルシェ・オスマン」や、フランス郊外のビジネス街に広がる「オーベルヴェリエ農園」、珍しい古代種の果物や野菜を栽培する「ソー・ウエスト農園」などの個性豊かな都市農園を運営。子供と大人のためのワークショップやイベントも定期的に開催し、食や環境意識の向上を目指しています。

テロワール・ダヴニールや屋上の都市型農園で、食がもたらす環境問題や社会問題などのメッセージを発信。“おいしい”だけでない食の側面に目を向けるきっかけづくりにも一役買っています。SCに感度の高い顧客を呼び込むフックとして期待されています。

La Félicité / フランス(パリ) / オープン 2022年5月17日(デベロッパーからの引き渡し) / 総面積 44,000㎡ / 建築事務所 CALQDavid Chipperfield Architects / デベロッパー EMERIGE

Researcherʼs Comment

SDGsとの相性の良さ、世界的な食糧危機、食料自給率低下への危機感などを背景に、従来の飲食だけに留まらず、「食」全般への関心が、感度の高い顧客を中心に一層高まっています。SCにとっても差別化しやすいです。農園、食品販売、レストラン、学校、ミュージアムなどの多様な手法、さらには、ワインなど特定食品への特化、ローカルやメッセージ性の重視、などのコンセプト展開もしやすいでしょう。従来よりも広がりを見せている「食」需要の発見、そして施設ならではの手法・展開の決定がSC差別化のカギになるのではないでしょうか。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

この記事を書いた人

丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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