若いファミリーを取り込むショッピングセンター

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電通のパパラボによると、家族時間は増加傾向にあるといいます。子どもから祖父母世代まで、あらゆる世代がそろって楽しめるショッピングセンターは、これまで以上に需要が増していそうです。本稿では特に若いファミリー層をメインターゲットとして展開しているショッピングセンターに着目し、世界の事例をレポートします。

※このレポートは2023年11月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

ファミリー向けテナントが集結!シンガポール随一の人気複合施設

タングリン・モール / シンガポール

妊娠から出産、子育てまでをトータルサポート

欧米系の駐在員やセレブが多く住むことで知られるシンガポールのタングリン地区。ここに建つタングリン・モールは、シンガポール随一の人気複合施設です。

国際色豊かな洗練されたショップやレストランがそろうほか、妊娠から出産、産後ケア、子育てまでをトータルでサポートするファミリー向けのテナントが2~3階に集結しており、新しく子どもをもつファミリーの間で、「はずせない施設」として認識されています。

親の悩みに各分野の専門家が的確アドバイス

特にファミリーを惹きつけているテナントが3階の「マザー&チャイルド」です。安心して妊娠生活を送るための計画を立てるクラスや、新生児の保護者のためのクラス、ウェルベビークリニック(乳幼児健診)などを開催しています。看護師や助産師、母子保健師、幼児マッサージインストラクターなどからなる専門チームが、胎児、新生児、乳児、幼児を安心して育てるための情報を提供します。妊娠中の女性や新米ママを対象にしたヨガやマッサージなど、体と心をケアするサービスも充実しています。

ショッピングモール内という立地から、妊婦や母親が育児のアドバイスを求めて気軽に立ち寄れるのが大きな魅力で、親同士の交流の場という機能も担っています。

3階には、子ども向け教室が軒を連ねます。アート教室「アブラカドゥードル・アート・スタジオ」、バレエ教室「シティ・バレエ・アカデミー」、スポーツ教室「リトル忍者アカデミー」、音楽教室「アワー・ミュージック・スタジオ」と、就学後の子どもも通えるようなラインナップです。

ファミリー層に嬉しいテナントも充実

2階には、子どもやファミリーに嬉しいショップなどが並びます。

チルドレンズ・ショーケース」は、世界中からセレクトした70以上のハイエンド・ブランドのアイテムをそろえるコンセプトショップです。おもちゃやゲーム、インテリア、食器、文房具、洋服、パーティーグッズなど、子どもが喜ぶアイテムが満載です。

オーガニック・スーパー「スクープ・ホールフーズ・オーストラリア」は、ナッツやドライフルーツ、お菓子など、主にオーストラリアとニュージーランドの認定された生産者から仕入れた商品を取り揃え、食にこだわるファミリー層に好評だといいます。

妊娠や子育ての悩みを専門家に相談できる場から、子どもの教室まで、若いファミリーの生活に寄り添うテナントが集結しています。長期スパンでの顧客獲得につながっているでしょう。

Tanglin Mall / シンガポール / モールのオープン 1995年 / モールの規模 4階建て

共働き家庭に嬉しい、新コンセプトの託児所がオープン

ブルックフィールド・プレイス / アメリカ

ショッピングモール内にあり利用しやすい

ブルックフィールド・プレイスはニューヨークの中心部ロウアー・マンハッタンにある、複数の建物から構成される大型の高級ショッピングモール。ニューヨーカー御用達の人気スポットです。

2022年秋、そんな人気施設に新コンセプトの託児所「ビッグ&タイニー」がオープンしました。2か月から5歳までの子どもを対象とした保育園、幼稚園、オンデマンド保育などのサービスを提供する施設で、単なる託児所ではなく、「現代のファミリーに進歩的な教育、支援的なコミュニティ、ワークライフバランスをもたらす」ことをコンセプトに据えています。

本格的な教育プログラムと快適な仕事環境

ビッグ&タイニーの特徴は、保育園、プレスクール、そしてコワーキングスペースの融合です。子ども向け(For the Tiny)と保護者向け(For the Big)のサービスや設備をあわせもちます。公式イメージ動画はこちらです。

子ども向けの学習プログラムは、探求型学習、体験型学習、芸術の統合、自己理解や社会性を育てる学習の4つの柱に根ざしたレベルの高い内容です。設備も充実しており、サイエンスステーションや読書コーナー、プレイエリア、触覚コーナー、アートラボ、ミュージックコーナーなどが設置され、子どもたちの興味に合わせてさまざまな体験ができるよう工夫されています。

保護者向けには、子育てに関するワークショップなどを開催するほか、親同士の交流の機会も提供しています。快適なワークスペースも整えられているので、必要な時にすぐに仕事ができるのも魅力です。

家庭のスタイルに合わせた4つのパッケージ

利用料金は公開されていないですが、ロサンゼルスのサンタモニカ店の料金表が参考になるでしょう。保育時間が異なる4種類のパッケージが月額185~950米ドル(約2.4万~12.3万円)と記載されています。このパッケージで、既存の3施設と今後数年間で全米にオープンする予定の施設すべてにアクセスできるというのも、出張や移動が多い親には嬉しいポイントではないでしょうか。

子どもたちと過ごす新しいリモート勤務形態ができたと反響も大きいです。近隣にオフィスをもつ企業が、子育て中の従業員の環境づくりとして役立てることも考えられます。

Big & TinyBrookfield Place内) / アメリカ(ニューヨーク) / モールのオープン 1985年(2015年リニューアルオープン) / テナントのオープン 2022年秋 / モールの延床面積 約56,700㎡(5棟からなる)

子どもから大人まで、世代を超えて快適に過ごせるリラックス空間

ショッピン・パセ / フランス

ウェルネスに焦点をあてたリニューアル

ショッピン・パセは、フランス北西部のブルターニュ地域にある町、パセに建つショッピングモールです。2021年8月のリニューアルオープンに合わせて、ウェルネスやビューティー、ヘルスといったジャンルを強化し、それらの関連施設が新店舗として参入しました。

テナントだけでなく、館内には目的別の休憩スペースがあるのが特徴で、世代の異なる買い物客がそれぞれに合ったスタイルで休めるよう、さまざまな工夫が凝らされています。

4つのテーマのリラックス空間

休憩スペースは4つのテーマが設けられています。スマートフォンやパソコンの充電ができ、コワーキングスペースとしても利用できる「アクセス」、本棚に置かれた本と自分の本が交換できる参加型ライブラリー「読む」、フォトジェニックな自撮りスペースと遊具が設けられた子ども専用エリアのある「ファミリー」、そして、無料でテーブルサッカーが楽しめる「リラックス」。

各テーマに合わせた空間づくりで、アクティブに遊びたい子どもや若者から静かに過ごしたい大人まで、すべての世代が快適に過ごせるようになっています。

ブランドをあげて休憩スペースを強化

「ショッピン」ブランドは、この休憩スペースを強化しています。きっかけは同ブランド2号店ショッピン・ウッサンのリニューアルでしょう。

2018年11月にリニューアルした際、子ども向けのインタラクティブなゲームを用意したキッズスペースや、タッチスクリーンで国際ニュースを閲覧できる大人のためのくつろぎスペースなどを設置しました。ターゲットグループの異なるテーマ別休憩スペースを設けた初めてのショッピングセンターとして当時話題となり、約400社が加盟するフランスにおけるショッピングセンターの業界組織CNCCによる「ショッピングセンター改修/拡張賞2018」を受賞しました。

どちらの施設も、子ども向けにさまざまなイベントを企画しています。夏休みのシーズンには、フランス発の人気テレビ番組「フォート・ボヤール」とコラボ。要塞から脱出するというストーリーの公式アトラクション体験会を開催し、多くの家族連れを呼び込んでいます。

小さな子どものいるファミリーから若者グループ、高齢者までが各々のペースで快適に過ごせる工夫が満載です。贅沢な使い方だが、居心地のよい空間づくりは集客につながっています。

Shop'in Pacé / フランス(パセ) / オープン 1996年 / リニューアルオープン 2021年8月 / 総面積 18,660㎡ / 総テナント数 61 / 商業エリア面積 8,760㎡ / 運営 Galimmo

Researcherʼs Comment

これまでもファミリーをターゲットとした施設づくりは重視されてきましたが、子育て世代が家族とのリアルな体験をこれまで以上に重視するようになった現在、妊婦や保護者とその家族をターゲットに据えたテナント、またあらゆる世代が楽しめる共有スペースなど、リアルなコミュニケーションを促進する空間やサービスへの注目が増しているでしょう。中でも、孤独・孤立が社会的な課題となっているいま、妊婦や乳幼児の保護者など、同じような立場の人が交流できるような場を提供するショッピングセンターは、需要が高まっているように思います。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

この記事を書いた人

丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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