最先端医療の付加価値を生み出す施設

ウェルネス |

高度化が進む医療。自己負担であることが多い高度な美容医療やウェルビーイングのサービス提供においては、治療はもちろん、それ以外の付加価値で差別化を図ることが重要となってくるのではないでしょうか。今回は、世界的評価の高い歴史あるクリニックの最新の取り組みや著名な文化人サロンとの協働による会員制クリニックの事例をご紹介します。また、計画中の最先端医療拠点づくりのビッグプロジェクトまで、「最先端医療」の付加価値創出につながる施設の事例をご紹介します。

※このレポートは2023年6月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

さまざまな角度から若返りを促す滞在型のクリニック&スパ

クリニック・ラ・プレリー / スイス

90年あまりの歴史をもつクリニック

クリニック・ラ・プレリーは、スイス・モントルーのレマン湖のほとりにある滞在型のメディカルクリニック&スパです。1931年、チューリッヒ大学卒のポール・ニーハンス教授による新鮮な動物細胞の投与が試みられたことに始まる、歴史ある施設です。

クリニックとはいえ、提供するサービスは5つ星ホテル並みです。豪華なゲストルームのテラスやバルコニーからは、美しい庭園とその先に広がるレマン湖を一望できます。レストランでは、栄養バランスが計算された食事だけでなく、カロリー計算をしたダイエットメニューも提供しています。

若々しさをサポートするリバイタリゼーション療法

滞在中は、リバイタリゼーション療法、ビューティー・プログラム、メディカル・チェックアップ、体重管理、睡眠療法、禁煙などのプログラムが受けられます。クリニック・ラ・プレリーの代名詞でもあるリバイタリゼーション療法は、活力の回復を促すことで知られる治療法です。通常日曜日から土曜日までの1週間の活性化プログラムでは、活性物質「CLP抽出成分」を投与することで体の若々しさをサポートし、その効果は1年半から2年ほど持続するといいます。

世界トップクラスの施術が受けられる併設スパ

2016年にリニューアルしたクリニック併設のスパも評価が高いです。各資格をもつ専門のエステティシャンが、メディカルスタッフとともにゲストをフォローアップ。徹底したメディカルチェックや、フィットネス、食事指導、そして個々に合わせた専門的なメディカルコンサルテーション、さらには美容整形や皮膚科のサービスまでも、スパ・トリートメントと合わせて受けることができます。

若々しさを保ちたいセレブなどが足しげく通う滞在型のクリニック。医療とスパの組み合わせで、体の隅々まで徹底的にケアできます。

Clinique La Prairie / スイス(モントルー) / オープン 1931年

サービスの行き届いた会員制サロンと最先端医療施設が融合

ランサーホフ・アット・ザ・アーツ・クラブ / イギリス

ホリスティックな医療で知られるクリニックランサーホフ・アット・ザ・アーツ・クラブは、ロンドンの高級住宅街であるメイフェアの中心にあるプライベート・ウェルネスクリニックです。医療従事者やセラピスト、トレーナーなどの専門家たちで構成されるチームにより、最先端の医療や最新の技術に基づくサービスが提供されます。

ランサーホフは、各国に高級メディカルスパを展開する世界的ブランドです。腸にフォーカスをあて生命力を活性化させる独自のメソッドで知られ、質のよい食事と正しい食べ方を指導することで、腸の解毒や浄化、再生を促します。

メディカルサービス×会員制サロンの贅沢なもてなし

この施設の最大の特徴は、ランサーホフの最先端のメディカルサービスを受けながら、ロンドンで最も高級な会員制施設であるザ・アーツ・クラブのもてなしを体験できるという点です。

ザ・アーツ・クラブは、作家のチャールズ・ディケンズが設立したもので、ロンドンに数ある会員制サロンの中でも最も歴史が長いもののひとつです。今日に至るまで、芸術、文学、科学に関わるクリエイティブな人たちや起業家の出会いの場であり続けています。

最先端医療施設とリラックス空間の絶妙なバランス

クリニックは、そんなザ・アーツ・クラブに隣接しています。2階のラウンジはクラブのインテリアと調和したザ・アーツ・クラブらしいラグジュアリーな雰囲気ながら、上階の4フロアと地下には、最新のスポーツジムやフィットネススタジオ、最先端の診断エリアが広がっており、ランサーホフらしいシンプルなデザインになっています。

医療施設と交流の場の機能をあわせ持つユニークな施設。会員制クラブのラグジュアリーなサービスで、健康意識の高いエグゼクティブたちを取り込むことに成功しています。

Lanserhof at the Arts Club / イギリス(ロンドン) / オープン 2019年 / 事業者 ランサーホフザ・アーツ・クラブ

地元のアイコニックな建物を利用し地域をあげて医学研究を支援

マガザン・ジェネラル / フランス

かつてフランス国鉄の倉庫だった建物を利用

フランスで医療機器の製造を手がけるドリアムは、かつてフランス国鉄の倉庫として使われていた建物を改装し、応用医学研究の支援機能を備えた施設を2024年に完成させるプロジェクトを推し進めています。建物はフランス中部トゥール近郊の街、サン・ピエール・デ・コールの所有物。

老朽化のため2006年より閉鎖していましたが、建物の象徴的な魅力に気づいた自治体が、地元企業であるドリアムにその未来を託しました。改装費用は8,000万ユーロ(約112億円)の見込みです。

専門施設に加え一般人のためのスペースも確保

総面積は28,000㎡で建物は3フロア構成です。国内外のスタートアップ用スペース(10,000m²)とオフィススペース(15,000m²)に加え、カフェテリアやスポーツ室、宿泊室といった多分野チームのためのレセプションスペース、そして一般開放の飲食スペース、屋外緑地などからなります。


計画内容から、パリの鉄道建築を活用したスタートアップキャンパス、スタシオン・エフとの類似性が指摘されていますが、本プロジェクトの特色は地域性です。地元の期待も大きく、環境に配慮した芸術・文化関連エリアを追加し、より開かれた場所にすることが提案されています。

地域と一体になりスタートアップや中小企業をサポート

今回のプロジェクトを通じて、ドリアムは、この地域での事業展開を継続するとともに、自社のスタートアップや提携する中小企業・零細企業、国際的大企業による研究開発を追求したい考えです。最終的には約1,000の直接的・間接的雇用を創出し、地域経済と一体化しつつ世界に開かれた役割を担うグループの地位を確かなものにするとしています。

街を象徴する建物を利用した、応用医学研究の支援を目的とする新施設です。一般市民も気軽に立ち寄れるようにすることで、地域を挙げての発展が期待できます。

Magasin général / フランス(サントル=ヴァル・ド・ロワール) / オープン 2024年(予定) / 総面積 28,000m² / 事業者 医療機器製造:ドリアム、不動産:ヴァンシ・イモビリエ

Researcherʼs Comment

最先端の研究、技術の開発により、医療はより高いニーズに応えるべく様々な展開を見せています。もちろん病気の治療という大命題に対する高度化も日々進んでいますが、ウェルビーイングについても存在感が増してきています。より健やかに、より豊かに生きる。人が求めてやまないものですが、それを提供する「場」もより魅力的で豊かなものであることは、サービスを受ける側にとっては価値あるものであり、最先端医療の付加価値として重視されています。それはホテルのような質の高い癒しの空間、文化やアートと結びついた特別な体験ができる空間など、多様であると思いますが、いずれにしても治療や療養だけではない、利用者に合ったより深い充足感を与えることは共通しています。先端医療を「受けた後」とともに「受けている時間」そのものの価値をいかに高めるかは、最先端医療に伴うテーマでしょう。国内外で様々なプロジェクトが進む最先端医療に関する複合施設、都市づくりにおいても、これまでにない魅力をもった場、サービスがさらに進化していくのではないでしょうか。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

この記事を書いた人

丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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