【イベントレポート】「京王プラザホテル SKY PLAZA IBASHO」の事例に学ぶ!バンケット需要変化に対応したチャレンジ

ホスピタリティ |

2024年11月15日、京王プラザホテル47階「SKY PLAZA IBASHO」にて、ホテル業界で働くみなさまを対象にしたイベントを開催しました。テーマは「京王プラザホテル SKY PLAZA IBASHOの事例に学ぶ!バンケット需要変化に対応したチャレンジ」。プログラムはトークセッションと施設見学会の2本立てで、本事例から見るホテル業界のトレンドやアイデアを共有し、事業のヒントや交流の機会をご提供しました。本コラムでは、当日の様子をお伝えします。

京王プラザホテル SKY PLAZA IBASHO | 実績紹介 | 株式会社丹青社

01. Talk Session:さまざまな椅子を選んで座る、チェアリング的トークセッション

第1部は、本プロジェクトを率いた株式会社京王プラザホテル 取締役 両角氏と、デザインを手がけた株式会社丹青社 デザインセンター 石井康祐のトークセッション。オータパブリケイションズの武田雅樹さんがファシリーテーターを務めました。

Profile
両角 純二
株式会社京王プラザホテル 取締役
プロジェクト統括室長(兼)営業戦略室長

1989年に京王プラザホテルに入社。ベルマンやフロントなど宿泊の現場に約10年間勤務した後、営業戦略室などで活躍。2012年に京王プラザホテル札幌へ出向し、2015年に料飲部副部長として当社に復職。2020年に営業戦略室長に就任、2023年からプロジェクト統括室長として、ホテルの将来の成長と躍進に向けた取り組みにチャレンジし続けている。
石井 康祐
株式会社丹青社
デザインセンター ホテルデザインユニット クリエイティブエキスパート

1999年丹青社入社。デザインポリシーは『Power of Design』。デザインの力でクライアントのビジネスの成功に貢献すること。物販店、飲食店などの商業空間からオフィスなどのコミュニケーションスペース、近年はホテルなどのホスピタリティ空間のデザインを中心に活躍。幅広い分野を手がけることで得た経験や知識を活かし、ユーザー目線とクライアント目線を大事にしつつ、常に新しいデザインにもチャレンジし続けている。
武田 雅樹(ファシリテーター)
株式会社オータパブリケイションズ
執行役員 Chief Branding Officer
HOTERES編集部 エグゼクティブプロデューサー
 
2010年株式会社オータパブリケイションズ入社、編集者。創刊1966年のホテルレストラン専門誌「週刊ホテルレストラン(HOTERES)」編集部長、出版事業部長を経て、2021年6月にホテルづくりをテーマにした新媒体「ホテルをつくるレシピ」を創刊。現在、オータパブリケイションズに所属しながら、まちとホテルの未来をデザインするコミュニティ「ホテル未来会議」を2021年6月設立。共同代表を務め、“都市(まち)×観光×宿泊施設”の共生を掲げ、「ヒト」「モノ」「コト」を編集して、ホテルの未来づくり活動中。

最上階の宴会場フロアを、誰もが思い思いに過ごせる広場へ。

―― トップフロアのバンケットを、多目的スペースにリニューアルした背景を教えてください。

両角純二(以下、両角)さん 2018年の耐震設備工事の際、フロアを何もないスケルトン状態にしたことがきっかけです。工事のあとに再びバンケットルームに戻すという話もあったのですが、2020年のコロナ禍以降、宴会需要の復活が見えなくなっていました。

コロナ以前は40-50名規模の宴会が頻繁にあったものの、これはほんとうに戻るのだろうか?リモートで済ませられることも増えたいま、顧客のニーズは大きく変化しているのではないか?今後の状況が予測できない一方で、インバウンドも含めた宿泊需要に関しては必ず復活すると考えていたため、「宿泊者に付加価値のある場所をつくろう」という方針が打ち出されました。

―― 新しい空間のコンセプトは、どうやって決めましたか?

両角 宿泊ゲストにヒアリングを行った結果、小さめの部屋にご宿泊のお客さまは「広いところで思いっきり手足を伸ばしてゴロゴロしたい」「足を投げたりしてゆっくりお酒を飲みたい」など、広さに対するニーズが見えてきました。また、当ホテルは1971年に開業したのですが、当時はまだ周りに建物は少なくて見晴らしが良かったんですが、50年の間に西新宿の開発が大きく進んだため、主に低層階にご宿泊のお客さまからは「もっといい眺めが見られたらうれしい」という声も聞かれました。

これらを踏まえて原点に立ち返ったところから出てきたのが、「広場」というキーワードです。そもそも京王プラザホテルの名前になっている「プラザ」は、スペイン語で広場の意味なんですね。そこから、誰もが思い思いに過ごせる都市の広場をつくろう、というコンセプトが決まりました。

個人でも、グループでも楽しい。リラックスも、アクティブも叶える。

―― 空間づくりのプロセスについて教えてください。

石井康祐(以下、石井)さん この場所は広くて、約1100㎡もあるんです。だから、ただ椅子を配置するだけでは単調な空間になってしまう。そこで細長い形状を生かして、6つのゾーンを計画し、利用者が好きな場所をチョイスできるように考えました。まず入口から目に飛び込んでくるのが「ラウンジ」で、夜はアルコール飲料の提供もあります。電源やUSBポートのある席を備えた「ライブラリー」は、PCを持ち込んで勉強や仕事をしたい方におすすめです。

そのほか緑をふんだんに採用し、自然に囲まれているような気分を味わえる「ガーデン」、靴を脱いでグランピング気分でくつろげる「パーク」、多彩なイベントを行える「ホール」、有料の会議室やカラオケルームを備えた「マルチパーパス」と、お客様の思い思いに過ごせる空間をご用意しました。また、シートは全231席をレイアウトし、いろんな空間が絡み合いながらも一体感があること、どこからも47階の眺望を満喫できることも大切にしました。

―― サステナビリティの観点からは、どんな施策をされていますか?

石井 すべてのホテルがサステナビリティへの取り組みに力を入れている時代ですし、京王プラザホテルもバリアフリーやエコロジー対応への意識は高くお持ちです。本計画では間伐材を利用したストランドボード、天然のコルク素材、衣類をリサイクルして建材にしたパネコなどを使用。リサイクルプラスチックを利用した家具なども採用し、持続可能な社会の創造への貢献を目指しました。

学生やファミリーなど、若い世代にも大人気。

―― ターゲットはどのように設定しましたか?

両角 当ホテルのお客さまは50〜70代が多いため、20〜30代の若い方たちにも来てもらいたいと考えました。だからこそ、お客さまを型にはめるような考え方はやめよう、まさに広場のごとく思い思いに過ごしてもらおうと。若い世代は、自分らしく過ごす時間を大切にしますから。

―― 実際に来てみたところ、ベビーカーがたくさん!乳幼児を連れたママの姿が多くて驚きました。これは計画段階から予想されていたことですか?

両角 はい。宿泊客だけではなく、街にもリサーチに出かけていました。例えば新宿中央公園に行くと、ベビーカーを押している方の姿を見かけます。この方たちは暑すぎる日、寒すぎる日、雨や雪の日はどこで過ごすのだろうと考えると、ホテルに来てもらえる可能性はあると思いました。その予想はズバリ的中して、想定したよりもはるかに多くの親子連れの方にご利用いただいています。デイタイムは大変賑やかですね。

―― どの地域から、どれほどの頻度で、来られる方が多いのでしょうか?

両角 囲い込みをしたくない、自由に思い思いに楽しんでほしいというスタンスから、会員制や予約制を導入していないため、ビジターのみなさまのお住まいやリピート率についてはデータがありません。新宿駅を利用される方がほとんどなので、新宿区、中野区、杉並区などをはじめとした東京23区だとは想像しています。お父さまがクルマを運転してきて、ホテル前で、お母さまとお子さまを降ろすシーンも珍しくないですね。

石井  いままでもホテルのメインバンケットであるコンコードボールルームや、南館の客室の改装など、多数のプロジェクトをご一緒させていただいていました。50年以上の歴史らしい、洗練されたオーセンティックな空間が主流だったのですが、今回は、カジュアルなカフェやコワーキングなど、従来の世界観とは異なるイメージ写真をたくさんもらったんですね。いい意味で、いままでの京王プラザホテルとは一味違う。それが新しい層からの評価にもつながっていると思います。

SNS欲をくすぐる空間づくりで、利用者からの口コミが広がる。

―― 47階に誰でも利用できる場所があるとは、なかなか気づかないと思います。宣伝はどのようにされましたか?

両角 宿泊のお客さまを優先したかったため、大々的なプロモーションは抑えていたのですが、若い方がSNSでどんどん発信したり、口コミで広げてくれたりしてくれていることが、驚くほどの威力を発揮しています。

石井 計画段階から若手スタッフの意見をヒアリングして、SNSで発信したくなる空間づくりを心がけていました。実際に利用するとなると、どこからどんな写真を撮るかをイメージして、ネオン風のサインを採用したり、5箇所にヘラルボニーのアートを配置したりと、思わずスマホを出したくなるようなスポットを散りばめています。そして何よりの財産は眺望です。

特に「パーク」は都庁ビューの超特等席で、夜にはすぐ目の前で躍動感のあるプロジェクションマッピングが見られます。これも相当SNS欲をくすぐるはずです!

気になる価格設定、ビジネスとしての収益は?

―― 利用料について教えてください。

両角 オープンは、デイタイムが8:00〜16:30、ナイトタイムが17:00〜22:00です。本館25階以上、南館28階以上にご宿泊のゲストは無料。ビジターのお客さまも予約の必要はなく、平日のデイタイムが2,000円、土日祝が2,500円、ナイトタイムは全日5,000円でご利用いただけます。※2024年11月15日現在

―― 昼はその料金で採算が取れるのか、逆に夜は5000円で利用する方がいるのか、聞いてみたいです。

両角 昼については「利益を上げる」という視点はあまりありませんでした。街なかのカフェのように、誰でもがフラッと気軽に足を運べる場所になればいいなと。ただ、利用者のみなさまの発信によって、毎日これほど多くの人が来てくれるようになったことを考えると、結果的に広告宣伝やプロモーションにかかる費用が賄えていると思います。カフェラテやカプチーノを、好きなだけ飲める点も喜ばれています。

両角 夜はご宿泊のお客さまがほとんどです。5000円の価値があるものを無料で使えるという「お得感」を伝えたかったので、昼の2倍以上の価格を設定しました。意外にも若い方のビジター利用もありまして、友人同士で眺望を見ながら談笑している姿も見かけます。若い世代はお酒を飲む量は減っている気がしますが、「いいな」と自分が思うものにはお金を払う傾向があると感じますね。毎日平均して300人程度の方にお越しいただいており、宿泊者とビジターは4:6くらいの割合だと思います。

リピートしたい場所としてホテルの価値上げに貢献している。

―― お気に入りのゾーンはありますか?

両角 ラウンジです。最初の提案をもらったときにガツンと来て、ぜひこれは実現したいと思いました。これは裏話ですが、パークには、ほんとうはハイジのブランコも作りたかったんです。都庁に向かって思いっ切りブランコを漕いだら気持ちがいいかなと。安全性の観点で見送りましたが、実現していたらお気に入りになったかもしれません(笑)

石井 わたしもラウンジが好きです。ホテルのロゴを円形のベンチで表現していて、とてもシンボリックな空間になったと思います。暖炉の火をボーッと見ながら、足を伸ばしてくつろぐひとときは、非日常を味わえて癒されます。

―― 本施設をつくったことの効果は感じられていますか?

両角 今年度は売上も評価も上がっています。「SKY PLAZA IBASHO」を利用される間に、ホテルのレストランでランチをしたり、この場所が気に入ったからもう一度泊まりたいという声も聞こえていますので、場づくりとしては成功と言えるのではないでしょうか。

02. On-site Tour:圧倒的な眺望を体感できた金曜夜の現地見学会

第2部は、参加者を4つのグループに分けての現地見学会。京王プラザホテルのみなさまが、6つのゾーンを丁寧に案内してくれました。見学会のあとは自由に過ごしてよかったため、乾杯や交流をされる方の姿もありました。

ラウンジ

ロゴをモチーフにした空間のシンボル。金曜の夜だったこともあり、海外ゲストのみなさんがお酒を飲みながら、くつろいでいられる様子が見られました。ホテル内にはもちろんオーセンティックなバーもありますが、ここはとてもカジュアル。一見ガラスに思える素敵なグラスが実はプラスチック製という遊び心も。

ライブラリー

ライブラリーで多いのは、やはり仕事や勉強をされる方だそう。電源席もありWi-Fiもあり、オンラインミーティングをすることもできます。完全なコワーキングスペースではないとはいえ、お子さま連れの方はなるべく他のゾーンで過ごしていただているそうで、ゆるやかにゾーニングがされている点も使いやすそう。

ガーデン

たっぷりした緑に囲まれた屋上庭園のような空間。まるで芝生の上にいるような感覚も気持ちがいいです。緑にはストレスや緊張を軽減したり、目の疲れを緩和したりという効果も示されています。スナック、チョコレート、ワッフルなども販売しているので、のんびりおやつタイムもおすすめ。

パーク

靴を脱いで入るエリアです。地上47階でのハンモック体験は、滅多にできるものではないので、子どもはもちろん大人も心弾みます。そしてパークは都庁ビューの特等席!見学会はナイトタイムだったため、プロジェクションマッピングを大迫力で見ることができ、参加者からは歓声も上がっていました。

ホール

ホールも靴を脱いで入るエリア。自然光が差し込む窓際には、お子さま向けの遊具が備えてあります。さまざまなイベントも開催されているとのことで、本日のトークセッションも、このホールで行われました。クッション、ベンチ、椅子など、参加者が思い思いのスタイルで座る様子は、まさに「広場」。

マルチパーパス

防音設備を施した有料エリアです。超集中して作業をしたいとき、周囲には聞かれたくないミーティングをする際などに1時間1000円で利用ができます。会議室もあり、ホテルスタッフがクライアントや業者とのミーティングをすることもあるそう。カラオケルームも1部屋ありました。

まとめ

コロナ禍を経て、バンケットフロアの現状や今後の活用に悩んでいるケースはあると思います。確かにホテル同士は競合かもしれません。でもときには、課題をシェアしたり議論したり、アイデアやヒントを伝えあったりすることができれば、業界全体の成長につながるかもしれない。本イベントがそのようなきっかけになれたら幸いです。

03. Plus Talk:働く環境を整えることは優秀な人材の確保に直結する

京王プラザホテル47階「SKY PLAZA IBASHO」のイベントに加えて、もうひとつオンラインでは、これからのBOH(Back of House)で必要なことをテーマにしたミニトークもありました。プレゼンテーターは、協創/共創のためのコンソーシアムpoint 0の取締役副社長を務める菅波紀宏さんです。

Profile
菅波 紀宏
株式会社point0 取締役副社長

2005年丹青社入社。営業として商業施設、空港、オフィスなどを担当。その後、経営企画統括部経営管理室に異動。2016年5月より同室計画課長として、全社予算策定、子会社管理、産学連携、共創を推進。2019年2月よりマーケティング活動および、協業による商品開発等に従事。2021年6月より現職に就任。2021年8月より横浜市立大学データサイエンス学部客員講師。

point 0は、協創/共創のためのコンソーシアム。「働く」を再定義することをキーワードにして、18社の企業が参画し、2019年から累計112の実験や検証を実施し、そのうち25件が事業化するという好実績をあげています。

BOHに対する菅波さんの提案は2つ。1つは働く場所をWell-beingにしませんか?というものです。Well-beingとは、身体的にも、精神的にも、社会的にも満たされた状態にあることで、1日の多くの時間を過ごすワークプレイスこそWell-beingであるべきではないか。実際に、Well-beingを実現するためにさまざまな施策を取り入れている「point 0 marunouchi」は、2020年に日本のコワーキングスペースで初めてWELL認証(※)でゴールドランクを取得。2024年には国内過去最高得点を得て、プラチナランクとなっています。

※WELL認証:空間のデザイン・構築・運用に「人間の健康」という視点を加え、より良い住環境の創造を目指したオフィス空間の評価システム。アメリカの公益企業IWBI(The International WELL Building Institute)により2014年にスタートした。

もう1つは、今後の企業活動を支えていくZ世代の価値観へシフトした職場づくりが急務だということ。宿泊業界において人手不足は深刻な状況で、企業の経営課題としては、もはや収益性よりも人材の強化が重要だとされているデータもあります。「Z世代は安心して働ける環境を求めています。中でもABW(Activity Based Working)の環境セッティングが快適で、場所を選択して働けることに価値を感じています。また、音環境への敏感さもZ世代の特徴です」。

point 0では、若い世代と定期的に交流する機会を設けているそうで、お互いに理解を深めるための試みを積極的に行なうことが大切だと締めくくりました。

point 0は、社員のWell-being調査にはじまり、Well-beingを実現するオフィスコンサルティング、WELL認証取得コンサルティングも行っています。ご興味がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

吉岡奈穂 / コピーライター

東京都出身。旅行会社、広告代理店等を経て、2003年日本デザインセンター入社。2019年よりフリーランスとして活動している。専門領域はブランディング、コピーライティング。月100冊の本を読む。

この記事を書いた人

吉岡奈穂 / コピーライター