目的地になるテーマ型ホテル、異業種コラボの可能性

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近年、日本でも相撲文化に触れられる「浅草横綱ホテル」(浅草)、一年中プールが楽しめるリゾート「BOTANICAL POOL CLUB」(千葉県安房郡)等、特定のテーマに特化したホテルが続々とオープンしています。テーマのある旅や体験を重視する旅が世界的なトレンドとなり、定着しつつあることが背景にあるでしょう。そこで本稿では、テーマ型ホテルのうち、異業種とのコラボレーション等で人気を集めている海外のホテルに焦点を当て、その概要や特徴についてご紹介します。

※このレポートは2023年12月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

伝説的サーファーとのコラボで誕生したカイトサーフィン・ホテル

キャラバン・バイ・ハビタス・ダフラ / モロッコ

カイトサーフィンが本格的に楽しめる、海沿いの美しいホテル

カイトサーフィンとは、ボードに乗り、専用のカイト(凧)を用いて風の力で水上を滑走するウォータースポーツです。今年、そのカイトサーフィンをテーマとしたホテル「キャラバン・バイ・ハビタス・ダフラ」がモロッコにオープンしました。伝説的なサーファー、ロビー・ナッシュとのコラボレーションによる最先端のカイトサーフィン・スクールが設置されるなど、本格的にカイトサーフィンが楽しめる施設となっています。

ホテルは、紺碧の海が広がり、風が年間平均300日吹くという、世界的なサーフィン・スポットであるダフラの海沿いに立地。地域色豊かなレストランとバー、プール、ヨガ&ウェルネスセンター、野外映画館等がある充実の内容となっています。美しい景観と楽しく自由な雰囲気を公式動画でぜひ感じてください。

初心者から上級者まで楽しめるスクールが最大の魅力

この施設の最大の特徴ともいえるのが、初心者から上級者までレッスンを受けられるカイトサーフィン・スクール「ナッシュ・カイト・ハウス」です。バイリンガルで、経験豊富なインストラクターが常駐しており、中にはプロも。ボードやウエア等、体験に必要なものは全て用意されているほか、ロッカールーム、シャワー、バー、デッキ完備で、持ち込んだカイトギアの保管や整備、パッキング等のサービスも提供しています。定期的にプロ・アスリートによるキャンプも行われるといいます。

カイトサーフィン以外のアクティビティも豊富

どんなレベルのゲストでも楽しめるよう、風のある日、風のない日のどちらのアクティビティも用意されている。マウンテンバイクに乗ったり、地元流のお茶やライブ音楽を楽しんだりとプログラムも豊富です。

併設の「サーフ・ウェルネス・クリニック」には樽型のサウナ小屋や深いプールがあり、フィットネス・トレーニング、動物の動きを取り入れたエクササイズやヨガ等のほか、点滴療法やマッサージ等も受けられます。

レベルを問わずカイトサーフィンにチャレンジできるよう、さまざまな角度からサポート。カイトサーフィン好きが自分達で楽しむだけでなく、友人に楽しさを伝える場や、安心して子どもに初挑戦を勧められる場としても活用できるのではないでしょうか。

Caravan by Habitas Dakhla / モロッコ(ダフラ) / オープン 2023年 / 客室数24室(広さや眺めが異なる3種類がある)/ 宿泊料金 2,800.00MAD(約36,100円)〜 / 設置者・運営者 OUR HABITAS

映画配給会社が手掛けた、本格的に映画が楽しめる世界初の4つ星シネマ・ホテル

オテル・パラディーゾ / フランス

最高の設備が整ったプライベートシネマ

フランス・スペイン映画配給会社mk が手がける、世界初の4つ星シネマ・ホテル「オテル・パラディーゾ」が2021年3月にオープンしました。mk2の代表であるカーミッツ兄弟による構想で、設計から開発にかかった期間は約6年。ホスピタリティ業界の経験豊富な人材登用とホスピタリティ事業者向け外部サービスを駆使し、完成にこぎつけました。

6スクリーンの映画館mk2ネイションに併設されたホテルは、客室35室、シネマ・スイート2室。全ての客室に幅3m以上の大型スクリーンが完備されており、劇場公開中の最新映画も視聴可能です。ジュニア・スイートではバスタブからもスクリーンが見えるようになっているほか、シネマ・スイートとなると、シネマ・プロジェクターやドルビー・デジタル等の本格的な映画鑑賞環境が整えられています。

映画に集中できるよう整えられた環境

いずれの客室にもタブレットが備え付けられ、プロジェクターに投影する作品の選択からスクリーンの光や音量の調整、飲食物の注文まで、ベッドに寝転びながらホテルのすべてのサービスにアクセスできるようになっています。ホテルの廊下には2,000本以上の映画DVDライブラリがあり、ここから選んで部屋で鑑賞することも可能です。

映像業界からも熱視線が集まる

屋上テラスは、パリの景観を見渡す広い野外映画館になっており、2023年5月26日〜10月31日の毎週日曜日は予約不要の上映会が行われました。作品はストリーミング・サービスを手掛ける2社、ホラー映画専門「シャドウズ(Shadowz)」と名画専門「カルロッタ・フィルム(Carlotta Films)」が選出したそうです。ネットフリックスアマゾン等のストリーミング・サービスを手掛ける企業が自社のプログラム発表の場にオテル・パラディーゾを使っているといい、ホテル業界だけでなく映像業界の間でも注目度が高まっています。

客室稼働率は93%と高く、フランス国内で次のホテルのオープンも検討されています。

日本でもアニメや漫画等のテーマで応用できそうな事例です。各コンテンツを発信する配給会社や出版社とコラボし、作品鑑賞に没頭できる理想的な環境をつくれば、外国人も日本人も楽しめるホテルになるかもしれません。

Hotel Paradiso / フランス(パリ) / オープン 2021年 / 客室数 35室+スイート 2室 / 宿泊料金 299ユーロ(約49,000円)〜 / 設置者・運営者 mk2

老舗ファッション誌による世界初のメディア・ブランド・ホテル

メゾン・エル・パリ / フランス

ハイセンスなパリジェンヌの暮らしを体現

2022年末、シャンゼリゼ通りや凱旋門に近いパリ17区に、老舗女性ファッション誌『エル』を運営するラガルデールによる「メゾン・エル・パリ」がオープンしました。エルはこれまでカフェやスパ、ヘアサロン等を手がけてきたが、ホテルは初めて。もとより、メディア関連ブランドによるホテル進出事体が世界初だといいます。『エル』の世界観に魅了される公式動画をご確認ください。

ホテルは、ブティックやライブラリ、映像作品のアーカイブ等を備え、エルのファンにはたまらない内容。ライフスタイルに重点をおき、エルが数十年の歴史の中でインスピレーションを得てきた「フランス流の暮らし」と「アイコニックなパリのスタイル」を体現する、エレガントでありながら親しみやすい空間となっています。コンセプトは「都会にある便利な自宅」です。

ファッション好きにはたまらない内容

建物はホスピタリティ事業を手掛けるヴァロテル・グループが所有していたホテルをリノベーションしたもの。インテリアはパリのデザインデュオ「ロラン&ロランス」によって、20世紀を代表するパリのクチュリエ(シャネルやサンローラン、ゴルチエ等)からインスピレーションを得てデザインされました。26室の客室の内装は、マリニエール、トレンチ、ツイード等パリジェンヌのワードローブをコンセプトにしており、何度訪れても異なる趣が楽しめるのも人気の秘密です。

こだわりのドレッシングルームは、化粧台、シャワー、スチーマー等必要なものが揃ったおしゃれな空間となっており、チェックアウト後も利用できるというのが嬉しいポイントです。コンセプト・ストアでは、フランス国内で当ホテル専用に作られたアクセサリーや服、バスローブ等が購入できます。また、パリを純粋に体験できるよう、アートや文化業界で活躍する女性たちとゲストが出会えるイベントも開催されるなど、エルならではのコンテンツも用意される予定です。

世界各地で「エル」ブランドを冠した施設を展開予定

ラガルデールはヴァロテル・グループ傘下のホスピタリティ企業等と提携して「エル・ホスピタリティ」を立ち上げており、世界各地で「エル」ブランドを冠したホテルのオープンを計画しています。これにはバンコク、ハノイ、日本も候補地として挙がっているとのことです。またホテルだけでなく、エル・リゾート、エル・レジデンス、エル・コワーキング等の展開も考えられています。

土地の歴史を活かしたハイセンスな「都会の生活」が体験できるユニークなホテルです。ブランドの認知度やノウハウを活用した、ゲストの体験の質を高める工夫が満載です。

Maison ELLE Paris / フランス(パリ) / オープン 2022年 / 客室数 25室 / 宿泊料金 250ユーロ(約 41,000円)〜 / 設置者・運営者 ラガルデールヴァロテル・グループ

Researcherʼs Comment

ご紹介した3事例はこだわりのポイントも立地も異なりますが、いずれもユニークな体験を提供しており、ホテル自体が目的地となっています。映画配給会社mk2や雑誌『エル』等にとってはホテルが独自のコンテンツ等を魅力的に伝える場として機能しており、新規顧客の開拓、コアなファンへのディープな世界観やプログラムの提供、ホテルという場ならではの顧客との関係性強化等に寄与しているでしょう。双方に良い影響を与えているように感じます。このようなコラボは、さまざまな展開が考えられ、今後さらなるユニークなホテルが登場するでしょう。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

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丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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