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ユニバーサルルームとは?注目の理由や導入する際の注意点を解説
ホスピタリティ |
ユニバーサルルームは国籍や性別、年齢、障害の有無などに関わらず、誰もが快適に過ごせる部屋のことです。近年はすべての人が利用しやすい「ユニバーサルデザイン」が注目されていることもあり、著名なホテルなど多くの宿泊施設がユニバーサルルームを新設し始めています。
この記事では、ユニバーサルルームの概要や特徴、昨今よく注目される理由から導入する際の注意点まで解説します。
目次
ユニバーサルルームとは?
ユニバーサルルーム(universal room)は、あらゆる人が安全に利用しやすいように配慮が行き届いた部屋のことで、車椅子利用者や高齢者に限らず誰でも利用可能です。
ホテルなど宿泊施設の新しい基準として多くの施設で採用されていますが、宿泊施設によって名称が異なります。同じような基準や配慮が導入されている部屋が、バリアフリールーム(barrierfree room)やアクセッシブルルーム(accessible room)、ハンディキャップルーム(handicapped room)などと呼ばれる場合もあります。
ただし、バリアフリールームは、障害によって生じる障壁(バリア)に対応するという考えの元に用意された部屋です。一方のユニバーサルルームは、障害の有無や年齢などにかかわらず多様な人が利用しやすいよう、環境側を整備する考え方を基にデザインされているといった違いがあります。
客室やユニットバスの入り口の段差をなくすなど、ストレスフリーな内装や広々とした空間造りが特徴で、車椅子やベビーカーも移動しやすく、高齢者や妊婦さん、赤ちゃんなどが過ごしやすいよう工夫されています。ピクトグラムや大きめの文字を採用するなど情報が伝わりやすい表示なども特徴です。
ユニバーサルルームを設置するホテルが増えている理由
ユニバーサルルームを置く宿泊施設が増加中の理由として、すべての人が楽しめるよう作られた旅行「ユニバーサルツーリズム」市場の需要拡大が挙げられます。
2016年の障害者差別解消法の施行や昨今の訪日外国人旅行者の増加に伴い、誰もが利用しやすい環境の整備が多方面で必要です。
さらに、国土交通省による2019年改正の「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(バリアフリー法)で、新規や増設するホテルに対し、日本で客室を50室以上持つホテルには、出入り口の幅が80cm以上ある客室を全体の1%以上設けるなどのユニバーサルデザインにする義務条例が決定したことも大きく影響しています。
各自治体で独自の基準を設けている場合もあり、東京都では東京都福祉のまちづくり条例と建築物バリアフリー条例を制定し、ユニバーサル対応を強化しています。
また、ユニバーサルルームの設置は、SDGsの10番目の目標「人や国の不平等をなくそう」の実現に向けた動きの1つでもあります。
ユニバーサルデザインの7原則とは
ユニバーサルルームは、設備やスペースの基準を特に設けていません。しかしその多くは、1985年にアメリカのロナウド・メイス氏が提唱した概念「ユニバーサルデザイン」の7つの原則をもとに設計されています。ここでは7原則の内容と、7原則がどのように反映されると良いのかを解説します。
【原則1】公平性
原則1の公平性(Equitable use)は、すべての人が同じ方法かつ自然な形で利用できる設計が挙げられます。公平で平等にサービスや施設を利用可能にすることがポイントです。
差別感や屈辱感がないこと、プライバシーに配慮しつつも、安心感や安全性を得られること、魅力的であることも要件に含まれています。例えば、滑り止めのマットや手すり、シャワーチェアなども、使いやすく魅力的であるデザインが求められています。
【原則2】柔軟性
原則2の柔軟性(Flexibility in use)は、宿泊施設利用者の多様性を考慮して、個人の好みや能力に応じて柔軟な選択肢の提供を求めています。 そのためには、使い方を選べ、右利き・左利きのどちらでも使え、正確な操作がしやすく、使いやすいスペースに合わせられる必要があります。
例えば、多様なニーズのある宿泊客対応への特別な訓練を受けているホテルスタッフが常駐し、頼めばそのサポートサービスが受けられるなど、必要なサービスや対応を利用者側が自由に選べることが重要です。
【原則3】シンプルで直感的
原則3は、シンプルで直感的(Simple and intuitive)であることです。使い方が簡単ですぐ理解できるシンプルさと直感的に操作できる使いやすいデザインの実現が求められます。
複雑にせず、直感的にすぐ使えて、誰にでもわかる用語や言い回しを使い、重要度の高い順番で整理されたガイダンスの提供がされているのが要件です。使用方法が一目瞭然であることもユニバーサルデザインに欠かせない要素の1つです。
【原則4】わかりやすさ
原則4は、知覚可能な情報(Perceptible information)で、利用者が必要な情報をわかりやすく理解できるデザインがポイントです。絵や文字のほか、手触りなど複数の手法を併用し、大切な情報は強調すること、情報を区別してわかりやすくすること、視覚・聴覚に障害のある人の利用の際には適切な道具などでも情報が伝わるようにすることが要件です。
導入例として、ホテルの案内やサービスメニューを大きな文字や点字、音声で提供することなどが挙げられます。複数の言語や手段など多様な方法で情報を伝えることを意識すると良いでしょう。
【原則5】安全性
原則5は安全性(Tolerance for error)で、使用時に危険な状態を誘発しないデザインのことです。必要な要件は、隔離したり覆ったりする配慮をすること、危険な行動やミスには警告を出すこと、間違った場合でも安全に設計すること、注意が必要な操作を意図せずしてしまわないよう配慮することなどです。
うっかりミスや危険につながらないよう、ユーザーエラーを未然に防ぐことを考慮したデザインが求められます。
【原則6】身体への負担が少なく、楽に使える
原則6では身体への負担の少なさ(Low physical effort)です。自然な姿勢で力を入れずに使え、繰り返しの動作を少なくして無理な負担が持続的にかからないようにする仕様が要件です。
無理な姿勢や強い力を必要とするなど、身体へ負担をかける動作をしないよう配慮が求められます。例えば、センサー式の蛇口の導入、ベッドの高さ調整、バスルームの水栓やシャワーヘッドの高さや角度調整、扉や棚の開閉なども楽にできるような配慮が挙げられます。
【原則7】大きさや空間の確保
原則7はスペース確保(Size and space for approach and use)で、アクセスしやすい空間と利用しやすい大きさを確保することがポイントです。
高さに関係なく、よく見えて手が届くこと、多様な手や握力の大きさに対応すること、車椅子など補助具や介助者のための空間を確保することなどが要件になっています。どのような身体的な特徴を持つ人にとっても、使いやすい大きさと空間の確保が必要です。
例として、通路の広さ、多目的トイレに無駄な障害物がなく、車椅子や歩行器でも部屋を自由に動き回れることなどが挙げられます。
ホテルがユニバーサルルームを設置するメリットとデメリット
世界中で注目され、導入が増加しているユニバーサルルームですが、ここでは設置するメリットとデメリットを紹介します。
ユニバーサルルームを設置するメリット
ユニバーサルルームの新設や増室は、昨今の重要度が増しているユニバーサルツーリズムに対応することでホテルの利用者層が拡大し、リピートも見込めるメリットがあります。
また、すでに日本人口の約3分の1は高齢者です。高齢者と一緒に同行者も楽しめるインクルーシブなホテルステイの提供は、三世代のファミリー層などにも対応できるため、顧客層がさらに広がるでしょう。
ユニバーサルルームを設置するデメリット
ユニバーサルルームを設置するデメリットとしては、通常の客室と比べると約1.4倍の面積が必要なことが挙げられます。ほかの部屋よりスペースを必要とするため、その分の売上減少や稼働率低下のリスクを伴います。
また、導入コストがほかの部屋よりかさむ点もデメリットとして挙げられるでしょう。
ユニバーサルルームを導入する際の注意点
ユニバーサルデザインは、すべての人に対応させることを意識しすぎると、かえって使いにくくなってしまうケースがあります。ユニバーサルデザインの7原則を満たす必要はあるものの、設備への配慮が過剰だと居心地が悪くなる事態も起きかねません。
例えば、無機質な手すりやスロープを配置すると病院や施設のイメージが強くなり「せっかくホテルに来ているのに、病院にいるようで心身が休まらない」などの声が上がることもあります。手すりやスロープなどは取り外し可能なデザインにし、要望があった場合に取り付けるなどの工夫も必要です。
まとめ
誰でも平等に不自由なく、安全で快適なホテルライフを楽しめるユニバーサルルームの需要は増えています。誰もが使いやすいよう、ユニバーサルデザイン7つの原則を満たしつつ、リラックスできる空間づくりのためには過剰な配慮は避けなければなりません。
ユニバーサルルームの増設や導入を検討しているなら、ぜひ丹青社にご相談ください。丹青社は、多様な施設の調査から企画、設計、施工など幅広い分野で事業展開し、さまざまな空間デザインを手掛けています。ユニバーサルツーリズム対応としての部屋作りやホテル空間についてお悩みの場合は、ぜひお任せください。
この記事を書いた人
株式会社丹青社
「こころを動かす空間づくりのプロフェッショナル」として、店舗などの商業空間、博物館などの文化空間、展示会などのイベント空間等、人が行き交うさまざまな社会交流空間づくりの課題解決をおこなっています。
この記事を書いた人
株式会社丹青社