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インクルーシブデザインとは?意味や歴史、施設や空間に取り入れる際のポイント
サステナビリティ |
インクルーシブデザインとは、従来のデザインプロセスで除外されがちだった多様な人のニーズを積極的に取り入れたデザイン手法のことです。障がい者や高齢者などを含むさまざまな視点を包括するデザイン手法に、注目が集まっています。
この記事では、インクルーシブデザインの概念や実践方法について解説します。施設や空間における具体的な適用例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
インクルーシブデザインとは?
インクルーシブデザインとは、多様な人々のニーズを積極的に取り入れたデザイン手法のことです。インクルーシブデザインのターゲットは、障がい者や高齢者、小さな子ども、妊婦などを含む「すべての人」です。
近年、プロダクトやサービスなどのデザインに、インクルーシブデザインが広く活用されています。
インクルーシブデザインの歴史
インクルーシブデザインは、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの名誉教授であるロジャー・コールマン氏によって、1990年代前半に提唱されました。
コールマン氏がインクルーシブデザインの重要性に気づいたきっかけは、車椅子使用者でも使いやすいキッチンのデザインを、友人から依頼されたことです。コールマン氏はこの経験を通じて、障がいのある人と同じ視点に立ってデザインする大切さを認識しました。
インクルーシブデザインが重要視されている理由
多様な人々のニーズに応えるインクルーシブデザインについて、重要視されている理由を解説します。
SDGsの実現のため
インクルーシブデザインが重要視されている理由は、SDGsの実現のためです。SDGs(持続可能な開発目標)は、多様性を尊重し、誰もが参加できる社会を目指す世界的な取り組みです。インクルーシブデザインとSDGsの関係性は強く、インクルーシブデザインの実現はSDGsの目標達成に寄与します。
誰もが豊かな暮らしができる社会を実現するため
インクルーシブデザインが重要視される理由は、共生社会の構築につながるためです。これまで除外されがちだった人々のニーズに寄り添うことで、インクルーシブデザインは誰もが暮らしやすい社会の実現に貢献します。
現在、生活に不自由を感じていない人も、加齢や予期せぬ事態により新たな課題に直面するかもしれません。そのため、インクルーシブデザインは多くの人の共感を得て、社会全体で重要視されています。
インクルーシブデザインとユニバーサルデザインとの違い
インクルーシブデザインとユニバーサルデザインの違いを解説します。関連する用語にも触れながら、それぞれの特徴を紹介します。
ユニバーサルデザインとの違い
ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインは、「誰もが使いやすいデザインをつくる」という目標において一致しています。
一方、それぞれのデザインは、アプローチの手法が異なります。インクルーシブデザインは、特定の人(除外されがちだったユーザー)の課題を起点としてデザインを検討する手法です。ユニバーサルデザインも幅広い層の使いやすさを重視しますが、主なターゲットは健常者です。
その他の似た用語との違い
インクルーシブデザインと関連する用語に、アクセシビリティとバリアフリーがあります。アクセシビリティは、さまざまなユーザーがサービスをどの程度円滑に利用できるかを表す概念です。インクルーシブデザインの成果を測る指標としても、アクセシビリティは用いられます。
バリアフリーは、障壁を取り除いて人々が豊かに暮らせるようにする考え方を指します。インクルーシブデザインが最初から障壁のないデザインを目指すのに対し、バリアフリーは既存のデザインから障壁を取り除くアプローチです。
インクルーシブデザインの7原則
インクルーシブデザインの原則(「Inclusive Design Principles」日本語訳)によると、インクルーシブデザインの7原則は以下のとおりです。
- 同等の体験を提供する
- 状況を考慮する
- 一貫性を保つ
- 利用者に制御させる
- 選択肢を提供する
- コンテンツの優先順位を付ける
- 価値を付加する
プロダクトのデザインに携わる人は、インクルーシブデザインの実現に向け、上記原則を意識しておく必要があります。
参考:インクルーシブデザインの原則(「Inclusive Design Principles」日本語訳)
インクルーシブデザインを取り入れる方法
インクルーシブデザインを取り入れる方法を解説します。除外されがちだったユーザーに寄り添いつつ、多様な意見を参考にしましょう。
除外の対象となるユーザーを把握する
インクルーシブデザインを取り入れる際は、まず、どのようなユーザーが除外されているのかを把握します。次に、ターゲットが不便を感じているポイントを詳細に分析します。
デザインから除外されがちな人は、高齢者や障がい者など特定の属性を持つ人だけではありません。例えば、「海外旅行をしたとき、外国語の表示内容が分からなかった」というように、状況次第で誰もが不便を感じる可能性があります。
多様な属性の人の意見を参考にデザインする
多様な属性の人の意見に触れると、魅力的なアイデアが生まれる可能性があります。アイデアが出たら、具体的なデザイン設計に移りましょう。デザインが完成した後は、さまざまな利用シーンを想定し、多角的な視点から検証を重ねます。
特定の属性のみに焦点を当てると、他の人々にとって不便なデザインになる恐れがあるため注意してください。
インクルーシブデザインは建築や空間にも取り入れることができる
建築や空間において、インクルーシブデザインを取り入れるポイントを解説します。
建築や空間におけるインクルーシブデザインとは
建築や空間におけるインクルーシブデザインとは、障がい者を含む多様な人々が、施設や空間を快適に利用できるように設計することです。
デザインを検討する際は、幅広いユーザーのニーズに配慮しながら、柔軟性のある設計を行います。例えば、オフィス空間には、さまざまな身体特性や作業スタイルの人が集まります。多様なニーズに対応するためには、以下のようなデザイン要素を検討するとよいでしょう。
・高さ調整可能なデスク
・人間工学に基づいたオフィスチェア
・誰もが操作しやすい位置にあるスイッチ
・適切な照明設計と音響調整
建築や空間におけるインクルーシブデザインのポイント
建築や空間におけるインクルーシブデザインでは、ユニバーサルデザインの原則を積極的に取り入れることが重要です。例えば、車椅子の利用者に向けたバリアフリー設計は、多様なユーザーにとっても利用しやすい空間づくりにつながります。
ユニバーサルデザインの原則は以下のとおりです。
・誰でも公平に利用できる
・使う際の自由度が高い
・簡単に使える
・欲しい情報がすぐに見つかる
・安全性が確保されている
・身体への負担が少ない
・使いやすいサイズと空間が用意されている
ユニバーサルデザインを採用した施設や空間の事例
前述のように、建築や空間におけるインクルーシブデザインでは、ユニバーサルデザインの原則を積極的に取り入れることが重要です。以下では、ユニバーサルデザインを採用した施設や空間の事例を紹介します。優れたインクルーシブデザインを理解し実践するために、ユニバーサルデザインの事例を見ておきましょう。
トラストクリニック(ハイメディック名古屋コース)
トラストクリニックは、ホテルのような落ち着いた雰囲気を演出しつつ、ユニバーサルデザインの原則である安全性に配慮したデザインを採用しました。フロアーは床段差をなくし、家具の出隅は、鋭利な部分がなくなるよう処理を施されています。
さらに、衛生管理の観点から、壁面にはアルコール清掃が可能な化粧塩ビフィルム材を使用しています。
三井ショッピングパーク ららぽーと堺
三井ショッピングパーク ららぽーと堺は、多機能な屋内型スタジアムコートを中心とした商業施設です。中央吹抜部分の広場にW3000、1/15勾配のスロープを設置して、誰もがアクセスしやすいよう配慮しました。段差のないステージも、ユニバーサルな舞台づくりに貢献しています。
福山城博物館
福山城博物館は、資料展示と豊富な体験型コンテンツを通じて、福山城と福山藩の歴史を学べる博物館です。エレベーターの設置をはじめとして、展示空間はすべてバリアフリー化されています。また、グラフィックや映像を多言語で表記するなどして、誰もが歴史を学び、楽しめるよう配慮しています。
インクルーシブデザインの注意点
建築や空間におけるインクルーシブデザインを取り入れる際には、専門知識が不可欠です。誰もが快適かつ公平に利用できる空間づくりのためには、関係者全員がインクルーシブデザインの理念を深く理解し、施設や空間の細部に至るまでの綿密な検討と設計が求められます。
インクルーシブデザインやユニバーサルデザインの実現においては、専門業者への相談も効果的です。丹青社はオフィスや商業施設などで、多くのユニバーサルデザインを手掛けています。空間づくりにお悩みの際は、ぜひご相談ください。
まとめ
インクルーシブデザインとは、障がい者や高齢者をはじめとする多様な人々のニーズを、積極的にデザインに取り入れることです。ユニバーサルデザインの原則を押さえ、これまで除外されがちだった人々のニーズを分析して、インクルーシブデザインを検討しましょう。
丹青社は、多様な施設の調査・企画・設計・施工・運営管理など、幅広い範囲で事業展開を行っています。チェーンストア事業ではパイオニアとして活躍し、文化施設事業においては、専門のシンクタンクを備え業界でも有数のシェアを誇ります。
インクルーシブデザインを取り入れた空間づくりに興味のある人は、ぜひ丹青社にご相談ください。
この記事を書いた人
株式会社丹青社
「こころを動かす空間づくりのプロフェッショナル」として、店舗などの商業空間、博物館などの文化空間、展示会などのイベント空間等、人が行き交うさまざまな社会交流空間づくりの課題解決をおこなっています。
この記事を書いた人
株式会社丹青社