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1杯のコーヒーを飲むことで、サステナブルな未来へつながる|「ネスカフェ 原宿」、2024年4月リニューアルオープン
サステナビリティ |
2024年4月、原宿駅前にある「ネスカフェ 原宿」が、9年ぶりにリニューアルオープン。新しい「ネスカフェ」のコンセプトである“Make your world”のもと、「ネスカフェ」のサステナブルへの取り組みを楽しく知り、体験できるコンセプトストアとして大きく生まれ変わりました。
この場所で伝えたいのは、1杯のネスカフェのコーヒーを楽しむこと。また、この小さなアクションが自分や周りだけでなく、気が付けば世界を少し良くするきっかけとなるということ。本記事では、半年にわたりプロジェクトを率いてきたネスレ日本株式会社の益戸洋平さんと、プロジェクトに伴走した株式会社丹青社の中村健人で、サステナブルをコンセプトにした空間づくりについて語り合います。
Profile |
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益戸 洋平 ネスレ日本株式会社 飲料事業本部 レギュラーソリュブルコーヒー&システム&ギフティングビジネス部 マーケティングスペシャリスト |
中村 健人 株式会社丹青社 商空間事業部 SE統括部 推進1部 開発課 プロジェクトリーダー |
目次
コーヒーを楽しみながら、“Make your world”を感じられる場所へ。
―― はじめにお二人の自己紹介をお願いします。
益戸洋平さん(以下、益戸) ネスレ日本株式会社の飲料事業本部に所属し、家庭用コーヒーメーカー「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」のマーケティングなどを担当しています。今回「ネスカフェ 原宿」のリニューアルにあたっては、チームリーダーを務めました。新しいカフェは、いままで以上に若い方に来てほしいという目的があったため、店舗開発からメニュー作りまでのすべてを、20-30代の若手メンバーを中心に4人で進めました。
中村健人(以下、中村) 株式会社丹青社の中村です。商空間事業部 SE統括部 推進1部 開発課に所属しています。専門店やチェーン店を中心に、企画やデザインから施工、運営サポートまでをデザイナーや制作担当などとチームを組んで取り組んでいます。ここ数年は無人店舗のオペレーションや、サステナビリティに特化した施策の提案なども増えています。
―― 「ネスカフェ 原宿」が、リニューアルすることになった経緯は何ですか?
益戸 「ネスカフェ」を通じてサステナビリティへの取り組みを表明し、人々の生活と地球にポジティブなインパクトを与えることを目指して、2023年10月に“Make your world”というコンセプトが打ち出されたことが発端です。この新しいブランドメッセージを若い方にも伝えたい。カフェという身近な場所で、ゆっくりコーヒーを味わいながら、わたしたちの取り組みや想いを感じてもらいたい。そう考えたことから大規模なリニューアルが始まりました。
―― コンセプトを空間に落とし込むときに、どのようなことを考えましたか?
益戸 サステナビリティを押し付けがましく強要したり、小難しく堅苦しいトーンで訴求したりということは避けたいと考えていました。“Make your world”の解釈としては、「ネスカフェ」を毎日の1杯に選ぶという小さな行動が、積み重なって、気が付けば自分やその周りの世界を変えるきっかけになるんだというさりげなさを、何よりも大切にしていました。
中村 日本では「そのコーヒーは、あなたをちょっとだけヒーローにする。」というプロモーションを展開されているんですよね。もともと「ネスカフェ」は、生産者や環境に配慮して作られたコーヒー豆を使うことに企業自体が注力されているので、カフェに来たお客さまは、「ネスカフェ」を飲むことでサステナブルなアクションをしていることになる。「再生農業」とか「森林伐採」といった言葉を掲げずとも、自然とそのストーリーが感じられる空間づくりを意識しました。
まるで、コーヒー農園に遊びに来たみたい。
―― 実際の設計は、どのように進んだのでしょうか?
中村 「ネスカフェ 原宿」は、コンセプトストアです。売り上げを立てていくことと同時に、企業をPRするメディアでもあります。だからやはり今までにないキャッチーなもの、口コミが広がりそうなもの、思わず写真を撮りたくなるもの、話題になる骨太なものを提案したいと思いました。
益戸 何かシンボリックなものがほしいと漠然と思っていたところ、リサイクル可能な段ボールで制作した巨大なツリー案が上がってきました。段ボールといえば資源ゴミを代表するような素材ですし、あえて断面を出すことで一層の「段ボール感」も感じられて、とても気に入っています。
中村 見ためもあたたかい雰囲気ですし、和みますよね。サステナビリティを軸にした設計というと、リサイクル建材を採用したり、FSC認証を取得したりという手法もサステナブルな活動を伝える大事なポイントです。もちろん持続可能な社会のためにはそれらも大切なのですが、実際、カフェに来る20代・30代のお客さまにとって嬉しいのかというとちょっと疑問もあります。今回はネスレのコンセプトムービーを何度も見返しながら、企業姿勢やメッセージを感じられるアイデアを練っていきました。
―― ほかにはどんな見どころがありますか?
益戸 「Farm to cup (農園からカップまで)」のストーリーを描いた、巨大なグラフィックも見どころです。My Worldは1杯の「ネスカフェ」を楽しみながら、ホッとしたり前向きな気持ちになる人。Our Worldはコーヒーをきっかけに会話が弾んだり、交流が生まれたりする様子。そしてThe Worldとして、美しい自然や地球環境への貢献という“Make your world”の中の3つの世界が描かれています。
中村 明るくのびのびしたイラストレーションで、まるでコーヒー農園の中に紛れ込んだような雰囲気が味わえると思います。コーヒー生産地を想起させるような人工芝を敷き詰めた階段席も人気で、解放感と楽しさのあるスペースになりました。また、椅子の座面にはアニマルウェルフェアの観点から、本皮を使わないといったことにも配慮しています。
中村 それから「ネスカフェ ゴールドブレンド エコ&システムパック」の 紙パッケージを使ってアップサイクルしたカウンターテーブルの天板も見てもらいたいです。もとの形や色が想起できるように粗くして、混ぜて作ったのですが、パッケージが裏返しになってしまうと、オリジナルの素材がわからなくなってしまう…一発勝負というところもあったので、狙い通りに完成したときは嬉しかったですね。
益戸 ユニフォームもアップサイクルした素材で作っています。個人的にはトイレサインが農夫だったり、ライトが藁の帽子やマグカップだったり、鏡がロゴのカタチだったりといった遊び心のある演出も好きです。
リピートしたいカフェになっていますか?
―― 大変だったことはありますか?
中村 メッセージ性をどこまで出すかに尽きますね。大上段に構えず、さりげなく伝えるという方針はあったものの、あまりにもさりげなすぎると伝わらない。「ネスカフェ」で何をやっているのかわからなければ意味がないわけで、その塩梅を調整することに神経を遣いました。
益戸 リピートしてもらうにはどうしたらいいのかも、かなり議論しました。ものすごく派手で、全部が特注レベルのインテリアやコンテンツを用意すれば、話題にはなりやすいし、一度は来てもらえるかもしれない。一方で、一回行けば十分だと思われてしまうかもしれない。カフェの本質はゆっくりコーヒーを飲んでリラックスしたり、気兼ねなくお喋りしたりできる居心地の良さなので、何度も来たいと思える内装やメニューづくりにも注力しました。
中村 実際に20代が、SNSにどんな写真をあげるかも検証しました。図面だと分かりにくいので、3Dモデルでフォトスポットのイメージを共有しながら詳細を詰めていきました。インスピレーションが沸いたり、家族や友人にシェアしたくなるようなスポットになっているのではと思います。
―― メニューの特徴はいかがですか?
益戸 コーヒー農園にいるような気持ちいい空間の中で、「ネスカフェ」のレギュラーソリュブルコーヒーを使用したラテアートや、季節ごとのアレンジドリンク、特製スイーツとのペアリング体験などを楽しんでいただけます。おすすめは、若手のバリスタが監修・考案した「アレンジドリンク」と「ネスカフェ ペアリングセット」です。
ペアリングセットは、「ネスカフェ ゴールドブレンド」や「ネスカフェ エクセラ」「ネスカフェ 香味焙煎」と、その香りや味わいを引き立てるスイーツのセットで、「ネスカフェ 原宿」だけでオーダーできます。自宅でも「ネスカフェ」を味わえるよう、おすすめのペアリングを記載した持ち帰り用のミニカードが付いています。コーヒーを好きになるきっかけや「ネスカフェ」の新しい1面を発見してもらえるように工夫しました。
自社ならではのサステナブルな取り組みを炙り出そう。
―― 完成後の評判はいかがでしょうか?
益戸 20代、30代のお客さまが以前より増えていますし、インバウンドの方もよくいらっしゃいます。取材のオファーも多く、さまざまな媒体に掲載されたほか、何よりも「イベントしたい」「コラボレーションしたい」という声が、リニューアル後には格段に増えました。先日も人気テレビ番組とのコラボ企画を実施し、大変盛況でした。 “Make your world” のコンセプトを体現する旗艦店として機能している手応えを感じています。
中村 学校の授業にSDGsが取り入れられていることなどもあり、若い年代の方たちは環境意識が高いという調査結果が出ています。実際に企業やブランド、商品やサービスを選ぶときに、環境に配慮しているかどうかを1つの指標としていることも珍しくない時代になりました。ビジネスとして成長していくにも、あるいはリクルートにもサステナビリティの要素は欠かせないので、何かワークショップなどのイベントも積極的にできたらいいですね。100人以上は収容できますし、フレキシブルに空間が使えるようにシンボルツリーも可動式にしています。
益戸 はい。現在は、自分だけのコーヒーボトルをカスタマイズして作成できる体験型コンテンツや、誰もが気軽に楽しく参加できるアップサイクルのワークショップなどを開催しており、今後も予定しています。店舗が完成したら終わりだとは思っていないので、サステナブルへの取り組みを展開する「ネスカフェ」とのさまざまな関わり方や楽しみ方を、トレンドの発信地である原宿という街から多くの方に届けたいと思っています。
―― 最後に、サステナブルを意識した空間をつくるときに大切なことはなんでしょうか?
中村 サステナブルの概念はとても広いので、自社が掲げるサステナブルに相応しいものを徹底的に追求することから始まると思います。今回のプロジェクトがスムーズに着地したのは、ネスレ様の中で軸が固まっていたから。なんとなく環境に良さそう…とか、取ってつけたような内容だと、お客さまには見破られてしまうと感じます。
益戸 自社のビジョン、ポリシー、社訓、スローガンなど、見つめ直すのは有効だと思います。わたしたちの事業のきっかけは1930 年代に、コーヒー豆の大豊作と価格の暴落に頭を悩ませていたブラジル政府からの要請を受けて、保存に便利なソリュブルコーヒーを開発、製品化したこと。そもそも社会課題の解決をするために生まれたというルーツを持っています。「ネスカフェ」も1938年の創立以来、サステナビリティをブランドの中心に据えて発展してきたコーヒーブランドなんですね。そのため、社内でも意思疎通が取りやすかったと思います。
中村 「コーヒーの2050年問題」という深刻な問題があるそうです。気候変動の影響で、2050年までにはコーヒー生産に適した地域が最大で50%にまで縮小し、コーヒーの供給が難しくなるかもしれないとのこと。コーヒーで生計を立てている約1億2500万人の人々の生活に影響が出ることが危惧されていると聞きました。
これだけ聞くと自分とは遠い世界の出来事に感じてしまうかもしれませんが、「ネスカフェ 原宿」に足を運んで、「ネスカフェ」のコーヒーを飲むことで、美味しいコーヒーを飲み続けられる未来につながる。企業が目指したい未来と、その空間での体験に明確な軸を通す。それが大切だと思います。
この記事を書いた人
株式会社丹青社
「こころを動かす空間づくりのプロフェッショナル」として、店舗などの商業空間、博物館などの文化空間、展示会などのイベント空間等、人が行き交うさまざまな社会交流空間づくりの課題解決をおこなっています。
この記事を書いた人
株式会社丹青社