テナント従業員休憩室を“競争力”に|グラングリーン大阪に見る商業施設BOH(バックオブハウス)の最新型

まちづくり |

商業施設・SCの働き手確保に不可欠な従業員休憩室とBOH。最新事例、グラングリーン大阪の取り組みを、関係者へのインタビューをもとに深掘り。アプリ活用による効率化、ウェルビーイングを起点とした空間づくり、そして「競争力」としてのBOHのあり方を探ります。

商業施設・SC(ショッピングセンター)における店舗従業員用の休憩室、そしてBOH(バックオブハウス、従業員専用エリア)のあり方が注目されています。背景にあるのは働き手の確保です。その最新事例が、大阪・梅田に開業した「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン」にあります。従業員休憩室とそれを含むBOH、アプリによる従業員支援について、立ち上げから関わるお2人にお聞きしました。

Profile
新井 貴雄(右)
阪急阪神ビルマネジメント株式会社
うめきた営業部/課長
金子 篤志(左)
阪急阪神ビルマネジメント株式会社
うめきた営業部/営業担当

働き手の確保のためには、魅力的な従業員休憩室が必須

「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン」北館の従業員休憩室「STAFF LOUNGE」 ※画像を加工しています

―― 商業施設・SCにおいて従業員休憩室が注目されている背景について教えてください。

金子 篤志さん阪急阪神ビルマネジメント株式会社 

金子篤志さん(以下、金子) 従業員休憩室の企画段階から、外部の方々を含めて色々と教えていただきました。働き手確保のために皆さんがBOHを重視しています。店員が足りずに出店を断念したり、店員不足から営業時間を短縮せざるを得ないという深刻な状況です。1日の営業時間が10時間だとすると、1人の労働時間が8時間だと2名必要となりますが、その2名の確保すら難しいのです。

郊外型の商業施設・SCに、充実した従業員休憩室の事例は多いようです。都心よりも働き手を集めにくいこと、そして面積を取りやすいのが理由だと考えています。グラングリーン大阪のような都心型はその反対で、働き手は集めやすいが面積は取りにくいという特徴があります。

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激戦区・梅田で選ばれる場所に、そのための従業員休憩室「STAFF LOUNGE」

「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン」南館の従業員休憩室「STAFF LOUNGE」 ※画像を加工しています

―― 大阪・梅田というエリアの商業施設の状況はいかがですか?

新井貴雄さん(以下、新井) 梅田は10年以上前からオーバーストアと言われています。グラングリーン大阪の先行まちびらきは2024年9月でしたが、その2か月前にJR大阪駅西口直結でKITTE大阪(キッテオオサカ)とイノゲート大阪が開業しています。商業施設・SCの集積がさらに増えたわけです。

新井 貴雄さん阪急阪神ビルマネジメント株式会社

梅田という地域のこのような状況をふまえ、計画の早い段階から、お客様からはもちろん、従業員の皆さんからも選んでいただく必要があると考えていました。従業員休憩室は、ただ存在するのではなくて応募の動機となるようにしたい、さらに休憩室以外のBOHの充実も必要だ、と。

私たちは施設運営を担うPM(プロパティマネジメント)会社として、他の施設でも現場の声を聞いています。それをグラングリーン大阪のBOHに反映させました。運営側の想いもありますが、独りよがりにならないように従業員の方々にヒアリングを重ね調整しています。仕様をまとめる過程には多くの学びがありました。

起点はウェルビーイング、BOHはコストではなく投資

―― グラングリーン大阪 ショップ&レストランの従業員休憩室やBOHを、どのように考えられたのですか?

金子 まず、街区のコンセプト「Osaka MIDORI LIFEの創造」との調和を考えました。「従業員の皆さんのウェルビーイングから始めよう」という共通認識が社内で醸成されていたので、BOHの核となる従業員休憩室を「STAFF LOUNGE」と名づけ「HYGGE(ヒュッゲ、デンマーク語で、居心地の良い空間や時間を表す言葉)」というコンセプトでデザインしたのも自然な流れでした。

新井 事業性の観点からは、都心型ということもありBOHの面積確保が課題です。しかし、ES(従業員満足度)の向上、従業員のウェルビーイングを掲げ、それがお客様へのサービス品質を担保することにもなる。コストではなく投資だという考え方をしています。機能面だけでなく、上質な空間で心身ともに休息できることを大切に考えました。

南館の従業員休憩室「STAFF LOUNGE」内の完全キャッシュレス型無人コンビニ:品数が多く好評、アイスクリームも人気
南館の従業員休憩室「STAFF LOUNGE」内の会議室:従業員専用アプリで予約可能、採用面接にも利用
従業員休憩室「STAFF LOUNGE」内のリクライニングチェア(右):足の疲れを癒せると好評、個人ブース(左):店舗から離れて事務作業ができる
大会議室:多様な集まりに対応する
撮影スタジオはSNS発信などの宣伝素材撮影に活用(右):ロッカーは三角屋根とし、荷物を置きっぱなしにしない工夫(左)

従業員休憩室「STAFF LOUNGE」への利用者の声

―― 反応はいかがでしょうか?

金子 テナントの皆さんからは非常に良い感想をいただいています。入居時の最初のご案内では皆さん驚きの声をあげられます。これまでの商業施設・SCでの従業員休憩室の印象とは大きく異なるのでしょう。実際、私たち自身も、竣工して目の当たりにした際には同様に「おお!」と声を上げました。パースで確認し想像はしていましたが笑。

新井 無人コンビニは品数も豊富で便利に使われています。店員の皆さんは立ち仕事なのでリクライニングチェアがあって助かるという声を聞いたり、オンライン会議等を想定した一人用個人ブースで作業されている方がいたり、学生と思われる方がレポートを書いていたり、もちろん睡眠を取るなど休んでいる方もいます。テナントの入れ替えなどはまだ数年先のことですが、そうした時にもこの「STAFF LOUNGE」が「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン」への出店を決める一因になるのではないかと期待しています。

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BOHを効果的に運用し業務負担も減らす「従業員専用アプリ」をゼロから開発

―― 従業員休憩室、BOHというハード面だけでなくソフト面からも働きやすさに取り組み、スクラッチ(ゼロからの開発)で従業員専用アプリを開発したそうですね。

金子 新規開業なのでハードとソフト両面の整備に取り組むことができました。「STAFF LOUNGE」の会議室の予約だけでなく、セキュリティ解錠、各種申請、従業員管理、福利厚生などを一元管理するアプリを作りました。商業施設運営にかかわる後方業務の負荷を軽減し、お客様対応や店舗運営などの本来の業務に集中していただきたいと考えたのです。ES向上、ウェルビーイングには、ハードの整備だけでなくソフトも重要です。

従業員の入退館管理でいえば、各店舗に設置したAIビーコンとアプリを連携し店舗で入退館登録ができるようにしました。通常ならば、出退勤のたびに防災センターへ入退館を申請しに行くのですが、それを無くして、店舗へ直接出勤できる環境を整備しました。特にグラングリーン大阪は広いので、時間節約の効果が大きいです。


新井 店長さんの業務は幅が広くて忙しい。たとえば施設からの連絡事項があるとして、それを自分の店の従業員全員に伝えなければいけない。今までは個人のLINEを使いグループを作り運用することが多かったと思いますが、中にはプライベートのLINEを使うのは嫌だと感じる方もいますし、セキュリティの問題もあります。このアプリにはチャット機能もあり、一斉連絡は簡単です。

また従業員管理もこれまでは紙で名簿を作っていましたが、これもアプリに移行しました。施設のセキュリティを守る、従業員のセキュリティを守る、そのためにも必要なことです。このアプリの開発はグラングリーン大阪の開発事業者と共に進めました。

2027年のグラングリーン大阪全面開業を控えて

―― グラングリーン大阪の全面開業は2027年の予定です。展望をお聞かせください。

金子 オフィス棟への入居はこれから本格化します。そうするとワーカーの方々の利用も増えますので、「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン」として期待されるサービスを提供していくことがまず重要です。そして、インバウンドの観光客の方々ですね。口コミを見て情報収集して来訪されますが、グラングリーン大阪の認知はまだまだです。世界から選ばれる観光拠点・目的地になりたいです。語学の能力開発ツールなどコミュニケーションのサポートも構想しています。

新井 店舗従業員の皆様には従業員専用アプリをもっと活用していただきたいですね。福利厚生についても発信しているのですが見ていない方もいらっしゃいます。全員がフルに活用している状況を目指したいです。そして「この施設で働きたい」と思っていただきたい。ウメキタ(梅田駅の北側一帯)はアジアの玄関口という位置づけですので、グランフロント大阪とあわせてその一翼を担いたいですね。外国の方々も働きやすい施設にしたいと考えています。

「グラングリーン大阪 ショップ&レストラン」の従業員休憩室「STAFF LOUNGE」、BOHとアプリ。ハードとソフトの融合によって従業員のウェルビーイングを大切にする先進事例として、これからの展開にも注目していきたい。

取材協力:阪急阪神ビルマネジメント株式会社

▼関連リンク

阪急阪神ビルマネジメント株式会社
https://www.hhbm.hankyu-hanshin.co.jp/

GRAND GREEN OSAKA SHOPS & RESTAURANTS
https://umekita.com/sc/

商業ゾーンの働く環境を整備し、街への誇りにつなげる | PARK & MIDORI LIFE
https://umekita.com/midori/features/fon_20240514_24/

撮影:織田 芳孝 
構成・取材・執筆・編集:山崎 泰

この記事を書いた人

山崎泰 / 丹青社「場と人」編集長・ジャーナリスト

丹青研究所で商業施設の調査・企画に携わった後、1997年に丹青社の社内新規事業「Japan Design Net(JDN)」創業に参加。メディア「JDN」「登竜門」の編集長、コンテスト制作の事業化を経て2011年にJDN取締役。2025年、丹青社に移籍。デザインに関する取材執筆多数。趣味はサックス演奏。

この記事を書いた人

山崎泰 / 丹青社「場と人」編集長・ジャーナリスト