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地方創生に寄与する複合施設
まちづくり |
「地方創生」という概念が提唱されてから10年が経過しようとしています。この間、複合施設は地方創生においても重要な役割を果たしてきたといえるでしょう。本稿では、国内外の複合施設を取り上げ、地方創生に寄与する取り組みの概要や施設の特徴に焦点を当ててご紹介します。
※このレポートは2024年1月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。
目次
工場をリノベーションした現代文化センターがクリエイティブ活動を支援
ル・リュニーク / フランス |
一般市民が日常的に利用できる敷居の低いアートスポット
フランス西部の街ナントにあるル・リュニークは、ビスケット工場を改修した現代文化センターです。ナントの文化プロジェクトの一環として整備され、フランス全土に広がる舞台ネットワーク「国立舞台」の施設としても認定されています。住民のクリエイティブな活動を促進する場として、地域の文化シーンにおいて重要な役割を果たしているといいます。
文化センターでありながら、施設内にはバー、レストラン、書店、ハマム(中東全域等に広く見られる伝統的な大衆浴場)、託児所等もあり、一般市民が日常的に立ち寄りたくなる機能が充実しているのが特徴的。高尚なイメージを持たれがちなアートを、老若男女問わず誰もが気軽にふれられるよう、様々な工夫が凝らされています。施設の様子はこちらでご確認ください。
伝統から前衛まで様々なアート・イベントを開催
ル・リュニークでは、年間100以上のパフォーマンスや200日以上にわたって行われる展示、アーティスト・イン・レジデンス、カンファレンス、フェスティバル等が開催されています。年間約60万人の来場者が訪れ、そのうち15万人以上がアート関係イベントの参加者です。
最近のイベントとしては、コンピュータ・アートのパイオニアであるジャック・ペルコントによるインスタレーションや、現代インドの女性音楽シーンを紹介する音楽イベント、ベルギー人振付家ミート・ワーロップによるパフォーマンスとビジュアル・アートを駆使した舞台等があります。いずれも伝統的なアートというよりも、前衛的で個性あふれるイベントとなっています。
街のシンボルタワーを復原
2022年には高さ35mのシンボルタワーが復原され、ナントの街並みを望む人気スポットとなっています。
タワーはもともと、1909年に工場で生産していたケーキのブランドをPRするために建てられたもので、復原の際、内部には見学ルートが整備されていました。当時の工場で生産していたビスケットやケーキに関するポスターや建物の写真等が展示されているほか、貴重なアーカイブ映像も放映され、工場の誕生から現在のル・リュニークに至るまでの歴史が紹介されています。
● Le Lieu Unique / フランス(ナント) / オープン年 2000年 / 施設規模 8,000㎡(表面積)、650㎡(ハマム)、1,100㎡(中庭)、700席(舞台座席数)
地域の自然や文化を体感できる巨大商業リゾート
ヴィソン / 日本 |
地元企業が協力する地方創生プロジェクト
ヴィソンは、2021年7月に三重県中部の多気町にグランドオープンした日本最大級の商業リゾートです。「すべては、いのちを喜ばせるために。」をテーマに掲げ、伝統と革新を融合させる新しい地域経済の活性化に向けて整備されました。合同会社三重故郷創生プロジェクト(株式会社アクアイグニス、イオンタウン株式会社、ファーストブラザーズ株式会社、ロート製薬株式会社の4社からなる合同会社)が手掛けたもので、敷地面積は約119万㎡という巨大な施設です。
SDGs達成への取り組みだけではなく、周辺地域の自治体と連携して進めるスーパーシティ特区の構想実現をめざし、最先端のテクノロジーが総合的に体験できる施設としても計画されています。敷地内は、グルメやショッピング、農園、アトリエ、宿泊施設といったテーマに沿った9つのエリアに分けられ、約70店舗が軒を連ねています。施設の公式紹介動画で広大さや洗練された施設空間等をご確認ください。
地元の食を存分に楽しめるグルメエリア
なかでも、日本最大級の産直市場「マルシェ ヴィソン」は、ミシュラン一つ星シェフの手島竜司氏が手掛けており、「これまでにない市場」をコンセプトとした目玉エリアです。地域の生産者が入れ替わりで出店する「軽トラマルシェ」や、海女の町・相差の海女さんによる「現代版海女小屋」、松阪牛や熊野地鶏、伊勢エビ、鮑をはじめとした三重県産の海の幸、山の幸も一堂に集められています。
このほか、人気パティシエ・ショコラティエの辻口博啓氏が手がけるパティスリー、石窯パン屋を展開する「スイーツ ヴィレッジ」や、和食の味を支える調味料メーカーが集う「和ヴィソン」エリア、さらに、世界一の美食の街サンセバスチャンを意識した“映える”エリア「サンセバスチャン通り」等もあり、多彩な食文化を楽しめるのがこの施設の魅力のひとつです。
地元で採れる季節の薬草を使った癒しのエリア
さらにヴィソンの個性を際立たせているのが、三重県発祥の本草学を取り入れた「本草エリア」だ。三重大学とロート製薬株式会社の共同研究により実現しました。
このエリアでは、独自の「本草七十二候」という考えに基づき、一年の季節の移ろいとともに5日ごとに変わる72種類の薬草湯を提供。施設内や周辺の薬草畑の薬草を活用した特別な湯で心身をリラックスできます。
他にも世界基準のウェルネスメニューが揃うサロン「ウェルネス・サロン・バイ・テウヅシキ」や、ミネラルミスト浴が楽しめる「ルフロ」、本草を使ったお茶が楽しめるカフェ「本草研究所リンネ」等、植物によってもたらされるまさに「癒しのエリア」となっています。
移住を促進?自給自足体験もできる農園エリア
「農園エリア」では、食にまつわる体験を提供。なかでもヴィソン・オーガニック農園を拠点とした「自給自足カレッジ」は特徴的です。自然との共生をめざし、環境と人に優しい「自然農」での野菜や米の栽培を軸に、自給自足の基本である「食の自給」を座学・実習で学べるカリキュラムを提供しています。受講者には専用畑が用意され、家族も利用可能という至れり尽くせりぶりです。遠方向けにオンライン受講が可能なコースも提供しており、農業や自給自足に関心を持つ人にとって、地域への移住を検討するきっかけにもなりそうです。
● VISON(ヴィソン) / 三重県多気郡多気町 / オープン年 2021年7月 / 施設規模 約119万㎡ 約70店舗
海洋活動の拠点となるオープンな海洋センター
ザ・ランタン / デンマーク |
多くのマリン・スポーツ・クラブが参加
2023年1月にデンマークの港町エスビャウにオープンしたザ・ランタンは、WERKアルキテクターとスノヘッタによって開発された小規模ながら美しい海洋センターです。地域のマリン・スポーツ・クラブが一堂に会する施設で、関係者はもちろん、地元の人から観光客まで、海を愛するすべての人に開かれた施設になっています。
すべての人に開かれた海洋活動の拠点
施設ではボートクラブやダイビングクラブ、ヨット協会、港湾学校、トライアスリート協会等、様々な海洋関連団体が活動しており、内部の見学が可能。ボート保管庫、トレーニング施設、大規模なワークショップスペース、社交場などがあり、海洋活動の拠点となるセンターです。開放的なデザインで、運が良ければ、活動メンバーから直接話を聞くこともできます。
水害時のシェルター機能も備える
建物は高潮を想定して堅牢に設計されているのも特徴です。1階までは一気に打ち上げたコンクリート製で、水が一気に流れ込んでも壊れません。さらに木造のファサードは厳しい気象条件に耐えられるように設計されており、万が一の際には、建物内に避難できる場所も設けられています。
実は、当施設は現在計画・推進中の大規模プロジェクトの一環。この先、様々な障害物コース、水球コース、水泳レーン、ウェイクボードコース等が整備され、多様なウォーター・スポーツを楽しめる施設に成長する予定です。プロジェクト推進の最初に避難施設を整備したことがわかります。
● The Lantern / デンマーク(エスビャウ) / オープン年 2023年1月 / 施設規模 2,800㎡
Researcherʼs Comment
複合施設はこれまで地域活性化に重要な役割を果たしてきたが、最近は歴史的建造物、地域発祥の学問、生活スタイル、活動団体等の地域にある幅広い魅力を取り上げ活かし、さらには住民発の活動や移住の促進、官民連携等、多様な視点で地域に寄与する施設がつくられているようです。日本では地方創生の取り組みを継承・発展する「デジタル田園都市国家構想」をふまえ、今後、地方移住促進やサテライト・オフィス等に力を入れた施設が増えそうです。(丹青研究所 国際文化観光研究室)
この記事を書いた人
丹青研究所
丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら
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