施設開発に応用できるルーフトップ活用のアイデア

まちづくり |

ルーフトップ・バーと言えば、ニューヨークを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。ニューヨークにはホテル最上階等でスカイラインの景色を楽しめるバーがあちこちに存在しますが、特徴的な空間づくりや、バーだけでない機能を展開する屋上活用も見られます。例えば、空港の屋上では、飛行機が行き交う滑走路の風景を間近で見られるという大いなる魅力があります。施設開発において、これらのアイデアが参考になればと思います。

※このレポートは2023年11月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

あふれんばかりの緑に囲まれた非日常を感じるルーフトップ・バー

ガロー・グリーン / ニューヨーク市マンハッタン

劇場の屋上にあるルーフトップ・バー

ガロー・グリーンは、オフ・ブロードウェイ(ニューヨークの小規模劇場)の没入型ショー「スリープ・ノー・モア」が行われている劇場、マッキトリック・ホテルの最上階にあるルーフトップ・バーです。「スリープ・ノー・モア」は、舞台と客席がある劇場で行う一般的なショーとは異なり、観客が6階建ての建物内の階段を昇り降りしながら移動し、それぞれの部屋で展開される役者のパフォーマンスを間近で楽しむというユニークなものになっています。

マッキトリック・ホテルはホテルの建物を劇場としてリニューアルしたもので、宿泊利用はされておらず、ショーの間、観客がさまざまな部屋を行き来できるものとなっています。最後に観客が一ヶ所に集められて公演が終わるが、その動線の先に設定されているのが、このガロー・グリーンです。

豊かな緑に囲まれた空間でショーの余韻に浸る

ガロー・グリーンの敷地内には花やハーブ等があふれんばかりに装飾され、まるで「秘密の花園」のような趣です。夏は緑陰の濃い街のオアシス、冬は焚火や二段ベッドを備えた丸太づくりのロッジと、季節ごとに非日常が体験できる演出がなされています。また、ショーの内容に合わせた料理やドリンクも提供され、オリジナル・カクテルが登場することあります。食事を楽しみながら、公演中にはぐれた仲間とそれぞれが経験した場面について語り合い、ショーの余韻にいつまでも浸ることができます。

ショーの演劇性に合わせた非日常を体験できる空間です。季節に合わせて演出を変えることで、目の肥えたゲストたちを飽きさせないよう工夫されています。

Gallow Green / アメリカ(ニューヨーク マンハッタン) / オープン年 2012年(コロナ禍で閉店の後、2021年に再オープン)

周辺で働く人々が集まれる場所としての屋上公園

ピア57 / ニューヨーク市マンハッタン

歴史的なターミナルのリニューアル

ニューヨーク州とニュージャージー州の間を流れるハドソン川沿いにあるマンハッタン側の埠頭、ピア57が再開発され、複合施設として2022年にオープンしました。屋上には約8,000㎡ものルーフトップ・パークを整備し、一般の人々に公開しています。

ピア57は、1907年に船舶と倉庫のターミナルとして建設され、1952年に改築されました。当時の革新的な建築技術を備えた近代的な埠頭として2004年に国家歴史登録財として登録されていますが、その2004年以降ほとんど使われていませんでした。

ニューヨーク州の外郭団体であるハドソンリバー・パーク・トラストが、このピア57を地元のコミュニティが利用できる場として再開発しました。2022年にルーフトップ・パーク、グーグルのオフィス、シティ・ワイナリー(ワインに特化したライブ・レストラン)がオープン、さらには2023年にフード・マーケットやコミュニティ・スペース等が整備され全面オープンとなりました。

今回の再開発は、ハドソン・リバー・パーク・トラストが、グーグルと不動産会社3社(RXRリアルティヤンウー&アソシエイツジェームスタウン)とパートナーシップを組み、約410百万米ドル(約611億円)を投資した大型プロジェクトです。1950年代の革新的な建築と現代的デザインを融合させた試みとして、ニューヨーク州歴史保存アワードを受賞しました。

コロナ禍を経て、市民が憩える場の創出としての屋上公園

ニューヨークのスカイラインやニューヨーク・ハーバー、ハドソン川の景色が眺められるルーフトップ・パークは、芝生、休憩できるベンチ等が設けられ、散歩やピクニック等に利用されています。

ニューヨーカー全員が楽しめる新しい緑地をつくることで、コロナ禍でリモートワークが増えた労働者をオフィスに戻し、街の活性化やコミュニティの再生をめざしています。屋内にはレストランやフード・ホール「マーケット57」のほか、「リビングルーム」と称されたくつろげるパブリック・スペースや、ハドソン川の環境や生き物について学べる環境学習施設「ディスカバリー・タンク」、地域団体が予約して利用できるコミュニティ・スペースも整備されています。

ハドソン川沿いの多様な空間づくり

上記のハドソンリバー・パーク・トラストは、ハドソン川沿いにある30以上の埠頭(ピア)を開発して公園化し、運営しています。スポーツ・フィールドを持つピア40、ピア57の隣の埠頭には複数の屋外劇場を展開するリトル・アイランド、スケートパークを持つピア62と公園と一言でいっても多種多様。現在は水遊びのプレイグラウンドを含む公園をア97で開発中です。かつて多くの船が行き来した埠頭は現在、人々が集まる場、憩いの場として生まれ変わっています。

開放的な立地や景観が活用できる場であることは空港などの交通拠点と似ているように思います。かつての交通の拠点を生まれ変わらせたパブリック・スペースの開発は、施設づくりの参考になるのではないでしょうか。

Pier 57 / アメリカ(ニューヨーク マンハッタン) / オープン年 1954年、リニューアル 2022年(ルーフトップ・パーク) / 施設規模 約8,000㎡(ルーフトップ・パーク)

空港という開放的な立地を大胆に利用した屋上インフィニティ・プール

TWAホテル / ニューヨーク市クイーンズ

滑走路を見ながらくつろげる年中オープンの屋上プール

ジョン・F・ケネディ国際空港(JFK空港)の敷地内に2019年にオープンしたTWAホテルは、屋上に滑走路が見えるインフィニティ・プールを設置しています。同プールは一年中オープンしており、夏は気持ちのよい冷水プール、冬は約30度の温水プールとして営業しています。プールやサンベッドでカクテルや食事を楽しみながら、飛行機が行き交う滑走路を見渡すことが可能です。

歴史的建築を活用した特徴的な空港内ホテル

TWAホテルは、かつて空港内の第5ターミナルとして使われていたTWAフライトセンターの建物を活用したホテル。TWAとはトランス・ワールド航空で、2001年にアメリカン航空に吸収された航空会社です。TWAフライトセンターは、アメリカの建築家、エーロ・サーリネンによって設計されたミッド・センチュリーの名建築です。空港ロビーとしては2001年に閉鎖したが、2005年に歴史的に重要な建築として国家歴史登録財として登録されています。

2019年の同ホテル開業直前には、ルイ・ヴィトンがファッションショーを開催したことでも有名だ。同ホテルはTWAフライトセンター部分を同時のホテル・ロビーとして活用、ラウンジやカフェのほか、トランス・ワールド航空の歴史を紹介する展示等も設置している。ホテルのフロントは空港のチェックイン・カウンターを模しており、当時の空港の雰囲気がそこかしこで感じられる工夫が施されている。

プールはホテル宿泊者以外も利用可能

屋上プールは、上記のホテル・ロビーに隣接して新築された宿泊棟の屋上に設置されています。フランス、コートダジュールの名門ホテル、オテル・ドゥ・キャップ エデン・ロックにインスピレーションを得たという同プールは3.5km以上も伸びるJFK空港最大級の旅客用滑走路と、約4.5kmの商業用滑走路を眺めることができ、隣接するジャマイカ湾も望めます。インスタグラマーが同プールの写真を撮りに訪れるとのことです。

プールの利用については、午前中ならホテル宿泊者は予約することなく無料で利用できます。夏・秋の午後のみ要予約で有料(25米ドル)です。宿泊者以外も利用可能で、利用料や営業ポリシーはシーズンにより異なり、夏・秋は要予約で50米ドル~、冬・春は予約の必要なく25米ドル~となっています。料金には、プールの入場料、タオル、プールバーの席利用(飲食物、プールのラウンジ席料金別)が含まれます。屋上を貸し切り、プライベート・イベントを実施することも可能です。

他に類を見ないロケーションのプールです。旅行者の利用だけでなく、名建築見学も含めてニューヨーカーのデイ・トリップ利用もあるといいます。

TWA Hotel / アメリカ(ニューヨーク クイーンズ) / オープン年 2019年

Researcherʼs Comment

「屋上」は、それだけで特別な解放感と心地よさが感じられる場所です。そこに、ピア57や他のハドソン川沿いの公園のように人が集まれる・憩える空間や活動できる施設を設けることで、より訪れたくなる場所となるでしょう。TWAホテルの滑走路が見える屋上プールは、インスタ映えする写真を求める利用者も見込める、立地を生かした話題性が高まる展開です。一方で、ガロー・グリーンのように景観を見せるというよりも施設の性格に合わせた演出も面白いです。施設の屋上はダイナミックな景観を提供できる大きなポテンシャルを持ちます。そこに人々が訪れたくなる工夫を加えることで、よりその魅力と話題性が増すのではないでしょうか。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

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丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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