若者・子どものコミュニティハブとなる大型複合施設

まちづくり |

昨今の大型複合施設は、買い物や飲食の場としてだけでなく、多様な機能を持ち始めています。地域に開かれ、人が集まり交流できるコミュニティのハブとしての役割を果たす施設も増えているように思われます。今回は特に、若い世代が集まり、交流できるしかけを持つ世界の大型複合施設を紹介します。

※このレポートは2024年8月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

多様な機能やイベントにより若者で賑わう巨大複合施設

ル・リュニーク / フラトゥール&タクシ/ベルギー

街のランドマークである歴史的建造物を利用

トゥール&タクシは、ブリュッセルの中心部に建つかつて貨物輸送のプラットフォームだった建物が、再開発により生まれ変わった複合施設です。歴史的な建物を単にランドマークとして残すのではなく、産業遺産の魅力を残しつつ現代的な役割とデザインを融合させながら、人々が集まる場所となりました。

広大な展示ホールからショッピングエリア、美しい屋外エリアまで、多様な機能を備えています。ここでは、体験、芸術、発見の交差点として、訪問者がブリュッセルの文化を深く体験できるよう、さまざまな工夫が凝らされています。

人々が集まれるスペースをさまざまに用意

本施設は、公園を含む10のエリアからなり、ベルギー名物を味わえる広大なフードコートや、ショップ、オフィスのほか、パブリックスペースを備えた「ガル・マリタイム」、オフィスとショップを兼ね備えた4階建てのマルチテナントビル「ロイヤル・デポ」、展示会などを開催するイベント会場やアミューズメント空間を備える「シェッド」などの建物が集まって構成されています。

「ガル・マリタイム」は、かつてヨーロッパ最大の貨物鉄道駅舎として使われていたスペースを利用(ガル[gare]は仏語で「駅」の意)。コンコースだった場所は、6,000㎡の中央広場としてパブリックイベントのために開放されています。最近では、スポーツのパブリックビューイングや、環境問題に関するフォーラム家具の展示会などのイベントが開催され、人々の交流の場として機能しています。また、「ロイヤル・デポ」の前に広がる2,500㎡の屋外スペース「音楽広場」は、公共利用のために作られた場所。訪問者はここで自由にスポーツなどを楽しめるほか、夏季にはダンスやコンサート、野外映画観賞会などさまざまなイベントが開催されます。さらに、「シェッド」はイベント会場として使用される建物で、年間を通して展示会や見本市などが開かれます。コミコンなど世界的なイベントにも使用され、多くの観光客を集めています。

若年層向けの施設やイベントも満載

上記に加え本施設には、ゴーカートサーカス体験施設トリックアートミュージアムおもちゃミュージアムなど、子ども向けのアミューズメント施設や展示施設も充実。

例えば、気候変動に関する展示施設「べレクスポ」は、未来の都市で人々がよりよく暮らすにはどうすればよいのかという問いについて、遊びながら考察を促すインタラクティブ展示を用意しており、若い世代とその教育者や家族を主なターゲットとしています。また、「スポーツ・ビー(Sport2Be)」では、6~20歳までを対象にした無料スポーツイベントを毎週企画し、若年層の集客を図っています。

歴史的建造物を残しつつ現代のニーズに合わせて再開発。アートからスポーツまで大小さまざまなイベントに対応できる汎用性の高さも魅力のひとつです。若者や子どもにフォーカスすることで利用者の幅も広がっていると思われます。

Tour & Taxis / ベルギー(ブリュッセル) / 2000年代に段階的に修復改装

エンターテインメントに注力することで活気を取り戻した複合型施設

ブンブン・ヴィレット / フランス

2年あまりの時間をかけた大規模リニューアル

ブンブン・ヴィレットは、もとは「ヴィルアップ(VILL'UP)」という名称で2016年にオープンした大型複合施設です。総面積約2万5,000㎡という広大な敷地内に、映画館などのアミューズメント施設や、約50のショップ・レストランで構成されていましたが、店舗の撤退が続き活気を失いつつありました。

そこで2022年末に、「施設全体をエンターテイメントに再び集中させる」と宣言。その後2年あまりの工事を経て、2024年「ブンブン・ヴィレット」としてリニューアルオープンしました。フードエリアとレジャーエリアの2段階に分けてスタートし、先にフードエリアが1月20日に、続いてレジャーエリアが4月4日にオープンしました。

食事だけでない楽しみを提供するフードエリア

施設は大きく「フードエリア」と「レジャーエリア」に分けられます。

「フードエリア」には約4,000㎡の敷地内に、20店舗のレストランと3店舗のバーが入るフードコートがあり、世界各国の屋台フードや伝統料理を味わえます。

フードコートの中央に配置されたステージで、誰でも参加できるさまざまな無料イベントが開催されているのも、このフードエリアの大きな特徴です。料理のワークショップのほか、コンサートやDJイベント、スポーツのパブリックビューイングなど毎日用意されるプログラムは実に多彩。毎週土日の午後にはワークショップイベント「キッズウィークエンド」を実施し、ヨガ体験や塗り絵教室などが行われています。

子どもから大人まで楽しめるレジャーエリア

一方、2フロアで展開される「レジャーエリア」には、デジタル演出がふんだんに使われたボウリングとミニゴルフ、トランポリン、アスレチック遊具VR体験まで、7つのアクティビティが楽しめる「セブン・スクエアーズ・パリ」や、『バットマン』の世界を題材にした、没入型の脱出ゲーム「バットマン・エスケープ」、テレビのクイズ番組に出演したような体験ができるクイズゲーム専用スペース「クイズルーム」など、ユニークな施設がたくさん。いずれもキッズ専用スペース完備というのも子連れ客にはうれしいポイントです。

また、映画館「シネマ・パテ・ラ・ヴィレット」は、4DX、Screen Xなど最新の上映システムを兼ね備えているほか、フランス唯一のキッズ(2〜14歳)専用シアタールームも用意。音響や照明に配慮し、子どものために設計されたポップな内装の室内にはレゴブロックで遊べるコーナーもあり、キッズ向けの上映プログラムが組まれています。

ショップやレストランが並ぶ一般的な商業施設を、エンターテイメントに力を入れることで生まれ変わらせた事例です。ターゲットを絞り個性を出すことで、施設全体の魅力が際立っています。多彩な施設やプログラムで、子どもから大人まで1日中いても飽きることはなさそうです。

Boom Boom Villette / フランス(パリ) / オープン年 2016年(2024年リニューアル)/ 総面積約2万5,000㎡

環境と子連れに優しい大規模ショッピングセンター

ザ・ランタウェストフィールド・ドナウ・ツェントラム / オーストリア

大手不動産グループが手がける巨大施設

ウェストフィールド・ドナウ・ツェントラムは、フランスを拠点に商業用不動産業を営む大手、URW(ウニベイル・ロダムコ・ウェストフィールド)社が手がけるウィーン最大のショッピングセンターです。

総賃貸面積は約12万7,300㎡。アパレル、雑貨、食品など幅広いジャンルのショップのほか、レストランフィットネスセンター映画館4つ星ホテルなど数多くの施設が入居しています。施設としてSDGsへの意識が高いことでも知られ、商品の輸送ルートを短縮することで温室効果ガスの排出量を抑える産地直送のスーパーマーケットや、屋上での養蜂、太陽光パネルの設置など、さまざまな取り組みがされています。

趣向を凝らした若者・子ども向けプログラム

この施設で特に注目したいのが、若い世代向けイベント・プログラムの開催です。

毎月最終日曜の午後にレストランエリアにて催される「ファミリーサンデー」は、ウィーンのラジオの有名司会者と施設のマスコットキャラクターによるイベントで、スマートフォンを利用して参加するクイズショーや工作ワークショップなどさまざまなプログラムが楽しめます。

レストランエリアでは定期的にスポーツのパブリックビューイングも開催。15㎡の巨大HDスクリーンを用いてスポーツの試合をライブ中継し、食事をしながら観戦することも可能です。

また、18~25歳までの女性の仕事やプライベートにおける成長を無料でサポートするメンタリングプログラムもユニーク。ビジネスコーチやインフルエンサー、ファッションデザイナーなどによる、コミュニケーションスキルや財務スキルなどの向上に役立つ講義が開催されています。

細かな気遣いを感じるファミリー向けサービス

ファミリー向けサービスが充実しているのも大きなポイント。

魔法の屋根裏部屋」は、買い物中の保護者の負担を軽減することを目的とした、専門保育スタッフ付きの子ども用エリアです。対象は3~11歳(保護者も入場する場合は0歳~)で、最大3時間子どもを預けることが可能(有料)。読書コーナーや遊具などが完備されているほか、ダンスや工作などさまざまなプログラムが日替わりで用意されています。また、予約をすれば、誕生日パーティーや仮装パーティーなど各種パーティールームとして利用できるというのも魅力的です。

このほか、 滑り台や木登り体験が楽しめるアスレチック遊具や、工芸ワークショップ用のスペースを揃えたプレイエリア「マジックツリー」は、誰でも無料で利用OK。また、おむつやおしりふき、ベビーフードといったベビー用品の用意や、赤ちゃんのおむつ交換や子どものお世話ができるベビーラウンジの完備、子どもが迷子になった時にも安心な緊急用リストバンドの貸出など、子連れ客も安心・安全に過ごせる工夫が満載です。

公式サイトで「URW社を代表するファミリー・エクスペリエンスの拠点」と謳うように、家族連れ客のために徹底的に考えられた至れり尽くせりのサービスが魅力です。環境への意識の高さも、未来を担う子どもや若者を大切にする姿勢とリンクし、メッセージ性の高いものになっています。

Westfield Donau Zentrum / オーストリア(ウィーン) / オープン年2003年に URW(Unibail-Rodamco-Westfield)社が取得、2012年リニューアル / 総賃貸面積 約12万7,300㎡

Researcherʼs Comment

今回紹介した施設は、コロナ禍をはじめさまざまな要因から人とのつながりが希薄になっている現在において、若い世代同士のリアルな場での交流を促す役割を果たしているように見受けられます。共通して、ショッピングや飲食に加え、イベント・アクティビティ、アミューズメントエリア、子どものためのエリアなどが整備されている点が特徴です。若者や子どもにとっては、イベントへの参加やアミューズメントエリアでの楽しみが施設に足を運ぶ動機になっているといえるでしょうか。イベントをきっかけに集まれる場、仲間と一緒に楽しめる場であることが、若い世代の集客につながり、コミュニティのハブとして機能するようになっていると考えられます。大型複合施設は、遊べる・楽しめる体験を提供することで、人と人とがつながるきっかけを生み出す交流拠点になりうるのではないでしょうか。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

この記事を書いた人

丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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