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Z世代・ミレニアル世代はオフィスに何を求める?インタビューから見えた世代差とオフィスづくりのヒント
ワークプレイス |
ハイブリッドワークが定着し、「オフィスに行く意味」が改めて問われるようになっています。単なる業務スペースとしての役割を超え、オフィスは社員にとってどんな価値を持ち、どのような環境が出社を後押しするのでしょうか。
今回はZ世代(1990年代半ば〜2010年代前半生まれ)とミレニアル世代(1980年代前半〜1990年代前半生まれ)、それぞれの世代のオフィスワーカー2名ずつ、計4名にインタビューを実施。出社に対する本音とオフィスに求める役割を探っていきます。

目次
Case1. 「出社は義務。でも雑談があると“来てよかった”と思える」(Aさん/Z世代/女性)
Aさんは週1〜2回出社という勤務形態で、人事・総務を担当しています。出社は会社のルールや予定に従った義務的なものが中心ですが、それでも「今日は来てよかった」と思える瞬間があるといいます。

—— 出社のモチベーションは何ですか?
Aさん:正直、“行きたい”と思って行くことはほとんどありません。ルールに合わせてしぶしぶ出社する感じです。ただ、楽しい雑談ができた日は「来てよかった」と思える。残業中に同僚と話したり、普段話さない人と交流できたりするとすごく嬉しいです。仕事は全然進まないこともありますが(笑)、その瞬間にしか生まれないコミュニケーションの方がよっぽど大事ですね。完全にリモートになると逆に怠けてしまうので、オフィスで頑張っている人を見て自分もやる気を出すこともあります。
—— オフィスの環境についてはどう感じていますか?
Aさん:会社はフリーアドレス制ですが、総務の仕事柄、私は固定席で作業をすることが多いんです。しかも背中しか見えない席配置なので、他の人と関わりにくいのが課題ですね。周りが楽しそうに話しているのを見て、自分はその輪に入れずに寂しさを感じることもあります。また、窓際や壁際の席にいる人にはこちらからも声をかけづらく、雑談のきっかけを逃してしまいます。
—— 交流のしやすさが大事なのですね?
Aさん:はい、オフィスには雑談のきっかけになるスペースや動線があることが重要だと思っています。会議室の多さなど、業務上必要な機能を挙げればきりがないですが、それ以上にカフェスペースや団らんスペースのような、人が自然と集まれる場がある方が価値があると思います。席もオープンで、みんなの顔が見える配置が理想です。
—— 仕事に集中したいときはどのようにしていますか?
静かな場所に移動して作業したくなることもありますが、そうすると雑談の機会を逃してしまうのでジレンマを感じます。作業中にイヤホンをすることも多いですが、それでも遮って話しかけてもらいたいぐらいなんです(笑)。出社する以上は「人と話せること」がダントツで大きなメリットで、他には代えられません。理想は、集中と交流のどちらも満たせる環境ですね。
【Aさんの3つのポイント!】
・出社の一番の価値は「普段話さない人と雑談できること」
・固定席や背中を向ける配置など、孤立感を生むレイアウトに不満を感じている
・集中と雑談の両立を支える、オープンでセミフレキシブルな空間設計が理想
Aさんから読み解けるインサイト |
Aさんにとって出社は「仕事の効率」よりも「人との交流」が中心的な価値を持っている。リモートでは得られない雑談や他者からの刺激が出社に意味を与えており、オフィスは集中環境を整えるだけでなく、自然に人が関わりやすくなる仕組みや配置が重要。 |

Case2. 「机が並ぶだけの空間では息がつまる。高さや光の違いが会話を生む」(Bさん/Z世代/女性)
Bさんは不動産系のオフィス設計支援会社に勤務。「空間づくり」に強いこだわりのあるオフィスで働いているそうで、今のオフィスと前職の環境を比べながら、Bさんが感じるオフィスの価値を聞きました。

—— 今のオフィス環境について教えて下さい。
Bさん:今の職場のオフィスはこだわって設計されていて、執務エリアの中にも気軽に話せるスタンディングスペースがあったり、小上がりの畳スペースがあったり。カフェみたいな空間もあって、丸テーブルで打ち合わせしたり、個室で集中したりと、働く場所を自由に選べる感じなんです。空間のいろんな要素が混在していて、「居場所が一つじゃない」というのが心地いいですね。
—— オフィスでのコミュニケーションで印象に残っていることは?
Bさん:自分はプランナーを担っているのですが、スタンディングスペースで図面を広げたり模型を作ったりしていると、色んな人に「何やってるの?」と声をかけてもらえて、そこから会話が生まれたり、お互いに何かを手伝ったりということが頻繁にあるんです。カフェスペースではたまに臨時喫茶店のようなイベントもあり、業務外の雑談が自然に生まれていて、そうした仕掛けが出社のモチベーションにもなっていると思います。
—— 以前ご経験されていたオフィスではどうでしたか?
Bさん: 今振り返ると、前のオフィスは最低限の机と椅子が並ぶだけで、高さや配置の変化がなく、殺風景だったと思います。みんなが無言で作業しているので、話しかけづらく、非常に窮屈に感じていました。フリースペースは一応あったのですが、周りが静かに作業しているなか、そこで一人おにぎりを食べていると、なんとも言えない居心地の悪さがありました(笑)。ソファとテーブルの高さも微妙に合わないし、照明も白一色でリラックスできる感じではなく、「ここで長く過ごしたい」とは思えなかったですね。
—— どんな環境があれば理想に近いですか?
Bさん: 集中できるスペースとリラックスできるスペースがきちんと分かれていることです。たとえば、自分でコーヒーを淹れられるカフェスペースとか、誰でも手に取れる本棚があるとか。そういう“仕掛け”があると自然に人が動いて、会話も生まれやすいと思うんです。スタンディングスペースも必須ですね。高さやの違いがあるだけで雰囲気が変わるし、会話もしやすくなる。場所による照明の切り替え、家具のバランスなども、空間の心地よさにつながると思っています。
【Bさんの3つのポイント!】
・均質な机と椅子の並びでは、人の動きや会話が生まれにくい
・モードを切り替える仕掛けがなく、雑談や休憩のきっかけが不足している
・高さや光、家具の多様性が交流を自然に誘発する要素になる
Bさんから読み解けるインサイト |
Bさんにとってオフィスは「ただ作業をする場所」ではなく、「人の動きと会話を生み出すための仕掛け」が重要。空間に高さや光、家具の違いを組み込むことで、偶発的な会話や交流が生まれ、出社の価値が高まると考えている。効率的な執務スペースに加えて、モードを切り替えられる多様な場を持つことが、Bさんにとって心地よいオフィスの条件になっている。 |

Case3. 「集中だけでは疲れてしまう。休憩のタイミングがもっと必要」(Cさん/ミレニアル世代/男性)
Cさんは週5日出社し、会社の業務効率化やルーティン業務を担うオペレーション職に従事しています。これまで小さな家業の事務所や大手企業、猫と共生するシェアオフィスなど多様な職場を経験。その中で「仕事のできるリビング」のようにリラックスできる空間が理想だと語ります。

—— 現在の出社頻度は?
Cさん:平日は毎日オフィスで仕事をしています。会社としては毎日の出社義務はないのですが、オフィスにいた方が効率的だし集中できますし、業務的に対面の方が早く済むことも多いです。チャットツールでやりとりするより「ちょっといいですか?」と直接聞ける方が断然ラクなので、自分の意思で毎日出社しています。
—— これまでのオフィス経験で印象に残っている環境はありますか?
Cさん:シェアオフィス時代ですね。ちょっと珍しいと思うんですが、猫がいるオフィスだったんです。猫の世話をきっかけに自然と会話が生まれるし、ちょっと疲れたときに撫でたりすると気持ちもほぐれる。カフェのように友人とおしゃべりしたり、猫を撫でながら仕事をしたりして、肩の力を抜いて働ける場所でした。まさに「仕事のできるリビング」という感じ。仕事一辺倒ではなく、心地よさを重視した働き方ができていたように思います。
—— 逆に、現在のオフィスへの印象はいかがですか?
Cさん:今のオフィスは長時間デスクに座りっぱなしで、体も気持ちも疲れてしまいます。周囲がもくもくと集中して仕事をしていると、自分も無理に頑張らないといけない気がして、セルフプレッシャーがかかるし、雰囲気も殺伐としがちです。リラックスして仕事がしたい自身の気持ちと、周囲の集中している状態とのズレがストレスになることも。気持ちを切り替える休憩のタイミングや空間が足りないと感じますね。
—— どんな工夫があると過ごしやすくなるでしょうか?
Cさん:前の会社では、おやつの時間になるとコーヒーカートが回ってきたんです。そのタイミングでみんなが一息つけて、自然に雑談が生まれる。ああいう仕掛けがあるといいですね。あとは小さなフリースペースが複数あれば、休憩や切り替えを気軽にできると思います。今のオフィスは「休むぞ」と決めないと休めない雰囲気があるので。また、コンビニやごはんを買える場所が近くにたくさんあることも、意外と重要だと思っています。お腹が空いたときに気軽に買いに行けると気分も変えやすいし、働きやすさに直結しますね。
【Cさんの3つのポイント!】
・「仕事だけの場所」ではなく、安心して力を抜けるリビング的な要素を重視
・周囲の集中に感化され、無理に頑張ってしまうセルフプレッシャーがある
・自然に休憩を促す仕掛けや、小規模で分散したフリースペースが必要
Cさんから読み解けるインサイト |
Cさんにとってオフィスは単なる効率や集中の場ではなく、「安心感のある持続的な働き方」を支えてくれる環境が必要。殺伐としたオフィスはセルフプレッシャーを増大させ、疲労感を招いてしまう。意識せずとも気持ちを切り替えられる仕掛けや、休憩・会話の余白を日常的に提供することが、毎日出社しても心地よく働ける条件になっている。 |

Case4. 「人に見られるのが気になる。落ち着ける動線やスペースがほしい」(Dさん/ミレニアル世代/女性)
Dさんはビジネスプロデューサーとして、クライアント対応やプロジェクトの進行、ディレクションを担当しています。もともと朝が苦手で「出社はしたくない派」と語るDさんですが、出社への抵抗感を持ちながら、オフィス環境にどんな課題を感じているのでしょうか。

—— 出社の頻度やスタイルを教えてください。
Dさん:だいたい週3回くらいです。基本は出社したくない派なので、クライアント対応や荷物の発送など、必要に迫られたときだけ出社しています。フル出社は正直きついですね。家で仕事をすれば洗い物とか気分転換もできるし、コミュニケーションもオンラインで十分完結するので、毎日オフィス出社をする必要はないと思っています。
—— 出社に負担を感じるのはどんなときですか?
Dさん:まず、出社するとなるとお化粧や準備が必要になるので、それ自体が面倒です。会社はフリーアドレスなんですが、私はいつも同じ場所に座っています。理由は単純で、背後を人が通ると気が散るし、パソコン画面を見られるのも嫌だから。だから自然と通路を避けるように座ってしまいます。
—— 逆にオフィスに来ることで得られるものはありますか?
Dさん:上司や先輩が電話でやり取りしている様子を近くで聞けるのはありがたいです。話し方や間の取り方、コミュニケーションのコツを学べる。これはリモートでは得られない部分だと思っています。ただその一方で、周りが雑談で盛り上がっていると「邪魔していないかな?」と気を遣ってしまってモヤモヤすることもあります。雑談したい人と、集中したい人が同じ場所にいるとお互いに遠慮が生まれてしまう気がします。
—— オフィスに求めるものはどんなことですか?
Dさん:ほっとできる休憩スペースや、ランチを落ち着いて食べられるスペースがあることですかね。気を遣わずにリラックスできる場所がほしい。今は机でお昼ごはんを食べることが多いけれど、周りの目があるのでなんとなく落ち着かないです。あとは、トイレの場所もかなり大事です。オンラインMTGが主流になったことで、トイレ休憩の時間が取りづらくなってしまったように思います。忙しい合間でもすぐ行ける距離に複数のトイレがあると、安心していられます。
【Dさんの3つのポイント!】
・背後の視線や動きに敏感で、安心して作業できる環境を強く求めている
・会話を楽しみたい気持ちと、周囲への気遣いとの板挟みによるストレス
・休憩・ランチ・トイレなど、安心して過ごせる生活動線が出社の快適度に直結
Dさんから読み解けるインサイト |
Dさんにとってオフィス環境で重要なのは「周りを気にせず快適に仕事ができること」。背後の視線や周囲の雑談に気をとられる環境では、本来の力を発揮できずストレスがたまってしまう。安心感を支えるレイアウトや、休憩や食事で気を遣わずに過ごせる場所、さらに動線の快適さが、Dさんにとっての働きやすさを左右する要素になっている。 |

まとめ:Z世代は「偶発的な会話」、ミレニアル世代は「安心できる居場所」を求めている
今回のインタビューから見えてきたのは、Z世代とミレニアル世代がオフィスに求める価値の違いでした。
Z世代にとっては、「雑談や偶発的な交流」が出社の大きな価値の一つに。
Aさんは「集中していても遮って声をかけてほしい」と語り、Bさんは「人との会話を生み出す仕掛けが必須」と指摘しています。そこでしか得られない人とのつながりや刺激に価値を見出しているのが特徴です。
【Z世代が求める空間づくりのヒント】
・気軽な雑談を誘発する動線や場のデザイン
・机の配置や家具のバリエーションによるシーン転換
・「話しかけてもいい」と感じられるオープンな雰囲気
一方、ミレニアル世代にとって大事なのは「リラックスして快適に仕事ができること」。
Cさんは「周囲の雰囲気に感化されて疲れる」と話し、Dさんは「背後の視線が気になる」と語りました。セルフプレッシャーや他者の目から解放され、安心して休憩や切り替えができる環境こそが、持続的に働ける条件になっています。
【ミレニアル世代が求める空間づくりのヒント】
・背後の動きや視線から解放される安心感
・気兼ねなく休憩・食事ができる居心地のよいフリースペース
・トイレや買い物アクセスといった生活動線の快適さ
いかがだったでしょうか。
Z世代は「人とつながる偶発性」を、ミレニアル世代は「安心して力を抜ける環境」を重視していることがわかりました。オフィス設計に求められるのは、この二つを単純に分けることではなく、交流が自然に生まれながらも、無理せず自分のペースを保てる環境づくりなのではないでしょうか。雑談を誘発する仕掛けと、安心して休めるスペースをどう組み合わせるかが、MZ世代がともに心地よく働ける空間の条件といえるでしょう。

この記事を書いた人

株式会社丹青社
「こころを動かす空間づくりのプロフェッショナル」として、店舗などの商業空間、博物館などの文化空間、展示会などのイベント空間等、人が行き交うさまざまな社会交流空間づくりの課題解決をおこなっています。

この記事を書いた人
株式会社丹青社