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従業員の出社率を高める、働く+αの付加価値を持つ海外オフィス事例
ワークプレイス |
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、すっかり定着したテレワーク。この働き方を快適・便利と感じるワーカーも多いなかでオフィスへの出社率を高めるには、オフィスの在り方や役割をアップデートする必要がありそうです。そこで今回は、自社オフィスの空間に「働く」ほかにさまざまな機能をプラスすることで従業員の満足度を高め、「会社に行きたい!」と思わせる工夫を施している海外企業の事例を紹介します。
※このレポートは2024年9月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。
目次
キーワードは「連結」―従業員への思いやりに満ちた新オフィス
LGグループ / 韓国 |
従業員の「仕事とプライベートの調和」をめざす
電子機器、化学製品、通信製品の製造などを手掛けるLGグループは、2024年4月、ソウルにある本社ビル「LGツインタワー」をリニューアル。名前の通り、2棟のタワーから構成されるこのオフィスビルは、1年2ヵ月かけて低層部(地下1階〜地上5階)の従業員共用空間を改装しました。改装にあたり重視したのは、従業員の「ワーク・ライフ・ブレンディング」。
これは、「仕事とプライベートを適切に調和させて、新しい価値を実現するライフスタイル」をさす語で、空間を通じて従業員の業務効率と日常の満足度を高めることをめざしています。このワーク・ライフ・ブレンディングを叶えるために、改装に際しては社員から意見を募り、それらを積極的に空間づくりに反映させました。
「連結」を創出するために凝らされたさまざまな工夫
改装したタワー低層部は「コネクトウィン(Connectwin)」と呼ばれ、「人と人」、「人と自然」、「空間と空間」の連結強化に焦点を当てています。社内のあちこちに休憩スペースやミーティングスペースを設置するほか(「人と人」)、建物エントランスの前に噴水と屋外庭園を設置、地下1階には天井窓をつくることで、自然光が差し込む開放的な空間を演出しました(「人と自然」)。また、既存の動線が悪くオフィス内の移動が不便であるという声を反映し、階段や橋などを新たに整備。多くの人が通る1階ロビーと飲食施設が集まる地下1階を結ぶ大型階段と、東館と西館に分かれるタワーの地下1階から地上2階空間を結ぶ階段、東館2階と西館2 階をつなぐ橋をつくりました(「空間と空間」)。
ちなみに「コネクトウィン」の名前の由来は、「ツインタワーをつなぐ」という意味の「Connect Twin」と「成功的な会社生活のためのつながり」を意味する「Connect to Win」のダブルミーニング。こちらも従業員による公募と投票で決定しました。
従業員の要望に応え飲食&ウェルネスのスペースを充実化
飲食スペースも大幅にリニューアル。従来の定食タイプの食堂に加え、従業員からの意見を参考にサラダなどの健康食やインスタントラーメンのコーナーを用意したフードコートと、レストランチェーン店6軒が入店するレストラン街を新設しました。この改装により、オフィス内だけで、韓国料理、中華料理、和食、洋食など20種類以上のランチメニューが楽しめるようになりました。
さらに、従業員を対象に行ったアンケート調査で特に多くの要望があったフィットネスセンターとクリニックも設置。フィットネスセンターは、同時に最大110人を収容できる広さで、高性能運動器具ブランド「テクノジム」のマシンが80台あまり並ぶ本格的なもの。社内クリニックは、19世紀に韓国初の西洋式病院として設立以来、韓国の医療界をリードしている「セブランス病院」に運営委託しています。
また、ワーク・ライフ・ブレンディングの一環として、オフィス内では講演会や展覧会など空間を活かしたさまざまなイベントを継続的に開催しています。
● LG Group / 韓国(ソウル) / ビル名称 LG Twin Towers(2つの棟からなり、東館と西館に分かれている)/ オープン年 1987年、リニューアル年 2024年
スポーツや音楽などを楽しめる従業員専用の新施設をオープン
ケリオ / フランス |
自然と会社に足が向く本格的なアクティビティ施設
ケリオは、人事ソリューションに関するソフトウェア開発を行うフランスの企業です。本社に勤務する約500人の従業員のために、ワークスペースとは別に、福利厚生を目的としたアクティビティ施設「オティウム(Otium)」を2022年7月にオープンさせました。
1,500㎡以上の屋内と屋外エリアで構成された空間は、従業員は昼休みのほか、朝夕の勤務時間外にも無料で利用可能です(こちらの動画で確認が可能です:屋内・屋外)。「オティウム」という名称は、余暇、瞑想、心身の発達に関する幅広い意味をもつラテン語に由来しています。
従業員のさまざまな趣味嗜好に合わせた充実の内容
「スポーツエリア」には、屋外にテニス、バスケットボール、バレーボール、ペタンク(フランス発祥の球技)のコートのほか、卓球台、雲梯などのアスレチックコースを完備。屋内にはヨガやダンスのためのフィットネスルームがつくられています。
また「音楽室」は、エレキギター、アコースティックギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、ピアノ、マイク、ミキシングデスクなどが完備された本格的なもの。自分で楽器を持ち込まなくてもよいので、気軽に利用することができます。従業員は5ユーロ(約800円)で外部講師によるレッスンも受けられるというのもユニークです。このほか、ピンボールマシンやダーツなどで遊べる「ゲームルーム」もあり、仕事の合間をアクティブに過ごして気分をリフレッシュするのに最適です。
一方、ゆっくりくつろぎたいという従業員にはリラックス空間を提供。昼寝や瞑想に利用できる「仮眠室」や、落ち着いた雰囲気のなか読書ができる「図書室」、ヨガやストレッチに利用可能な「フィットネスルーム」があり、社員のオン・オフの切り替えをサポートしています。
● Kelio / フランス(ショレ) / リニューアル年 2022年(「オティウム」開設)
「企業らしさ」をオフィスで体現!ワークライフバランス重視の職場環境
アドビ / アメリカ |
企業が持つクリエイティビティを表現するアートなオフィス
アメリカのソフトウェアメーカー、アドビ。「デジタル体験を通じて世界を変える」というビジョンのもと、グラフィックデザインや映像制作などの分野で幅広い製品を展開しています。4階建てのオフィスの広さは約2万6,000㎡。アドビの持つ斬新なブランド力をそのまま反映し、進化し続ける企業文化を取り込むエンジンとなるようなワークプレイスとしてつくられました。
アドビのソフトウェアは世界中のアーティストやクリエイティブな人々にとって重要なツールであることから、壁にストリートアーティストやタトゥーアーティストによる作品を展開するなど、積極的に社内をアートワークで満たしています。「創造性と革新性」という、アドビの理念を空間でも表現しているのが印象的です。
従業員への思いやりを空間づくりで表現
また、フィットネス施設を備えることで、従業員のウェルネスやワークライフバランスに配慮することも忘れていません。一面ガラス張りで見晴らしのよい屋内バスケットボールコートや、本格的なクライミングウォール、種類豊富な器具が配されたジム、広々とした屋内プールなど、いずれもスポーツ施設に引けを取らない充実した設備になっています。
社員食堂としてオープンなカフェテリアのスタイルの飲食スペースを設け、地元産のオーガニック食材を使ったメニューを提供。地元の農家や職人から仕入れた食材のみを使用することで、地域にも貢献しています。また、カフェには卓球台が設置されており、社員同士の交流の場として機能しています。
● Adobe Inc. / アメリカ(ユタ州リーハイ)/ オープン年 2013年
Researcherʼs Comment
ワークスタイルが多様化し、制度面での働きやすさが特に重視されるなか、オフィス環境も快適で充実したものへと転換していくことで、より一層の従業員満足度の向上が期待できるでしょう。
LGツインタワーの改装では、従業員の声が第一に考えられていました。「こんなオフィスあったらいいな」が最大限叶えられた空間は、まさに通いたくなるオフィスといえるのではないでしょうか。そしてケリオのように、オフィス内に休憩時間を満喫できる空間を備えることは、単に息抜きになるだけではなく、従業員同士のコミュニケーションが活発になり、会話の中から新しいアイデアが生まれる、新しい知識が得られる、業務に関する報連相がしやすくなるといった、社内の生産性アップへとつながる役割を果たすのかもしれません。また、アドビが実践する「『企業らしさ』の体現」もオフィス空間の使い方の一つ。仕事へのモチベーションを上げ、帰属意識を高める効果があると考えられます。このような環境があれば、ただ「働く」のではなく、「前向きに働く」ことができそうです。
今回取り上げたすべての事例に共通していえるのは、「従業員の心に寄り添ったオフィス空間」であるということでしょう。オフィス空間に柔軟性を加えることによって、そこで働く人の心がほぐされていくはずです。従来のオフィスのイメージから離れ、「働く+α」をめざして一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。(丹青研究所 国際文化観光研究室)
この記事を書いた人
丹青研究所
丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら
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