ここからはじめよう!オフィスにおける海外のサステナブルアクション

ワークプレイス |

オフィスがサステナビリティを意識することは、企業の社会貢献活動の一環になります。最近では、設計段階から廃棄物が出ないようにデザインする「サーキュラーエコノミー」の視点を取り入れてつくられたオフィスが少しずつ増えているようです。そこで今回は、オフィスの建築設計や内装設計において、廃棄物削減やCO2削減に取り組むことで持続可能な社会づくりに貢献する海外の事例をご紹介します。

※このレポートは2024年12月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

ミラノ万博のパビリオンが、健康的で自然に満ちたオフィスへと変身

アストラゼネカ / イタリア

ミラノ万博のパビリオンに新たな命を吹き込む

バイオ・医薬品企業として有名なアストラゼネカのイタリア・ミラノにある新オフィスは、最先端の科学研究・教育・ビジネス・レジャー施設が集まる「ミラノ・イノベーション地区(MIND Village)」に位置しています。この地区は2015年ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)の開催地を再開発したエリアで、新オフィスビルは万博のパビリオンを改修して建てられました。

パビリオンの外壁はグリーンビルディング認証の一つであるLEED ゴールド認証を既に受けていたため、改修にあたっては、これに加えてLEED ID+Cゴールド認証(インテリア設計および建設を評価)の取得をめざして工事が進められました。オフィスのデザインは、①万博パビリオンの再機能化、②ブランドアイデンティティの強化、③持続可能性と地球への敬意の促進、④健康的な生活を育む職場環境への転換という4つの目的に基づいて考案されたものとなっています。

サーキュラーエコノミーの視点を取り入れた素材選び

オフィス内のデスクや椅子などのインテリアは、可能な限り再利用したものを用いることで廃棄物を削減しました。加えて、持続可能性を証明するグローバルな環境認証であるCradle to Cradle認証もしくはEPD認証を受けたものを含む、人間と環境への悪影響を最小限に抑えた生産プロセスでつくられた仕上げ材や素材を使用したインテリアを導入しています。

さらに、オフィス内に点在するワークスペース付近には、資源リサイクルコーナーやペットボトルの使用削減のためのウォーターサーバーを設置。オフィス完成後も継続的にサステナビリティへの取り組みを実践しています。

働く人のことも考えた空間づくり

広々とした交流エリアや本物のカフェのような休憩エリア、図書館のような雰囲気の作業エリア、仕切りを動かして自在に空間の広さを変更できるレセプションエリアなどが相互に連結し合って構成されるオフィスは、各エリアの機能に応じてデザインされたインテリアや色彩を取り入れることで、従業員の集中力・リラクゼーション・創造性を促しています。例えば、色彩の工夫としては、静かなエリアはパステルトーンを基調とすることや、生産性・創造性を刺激するために会議室には黄色とオレンジを使用することなどが挙げられます。

オフィス全体にはバイオフィリア(「人は本能的に自然とのつながりを求めている」という基本概念)を導入。受付エリアの壁をグリーンウォールにし、自然光が降り注ぐオフィスの天井には植物やフラワーボックスを配置するなど、自然の要素をふんだんに取り入れることで、リラックスした雰囲気を生み出しています。オフィスの外装・内装はこちらから確認できます。

かつて万博のパビリオンとして使われた建物をオフィスビルとして活用するユニークな事例です。空間を構成する素材へのこだわりからは、環境への配慮と同時に従業員への思いやりが感じられます。リサイクルコーナーの設置などによって日常的にサステナブルアクションを促すことで、従業員一人一人の意識も向上しそうです。

● AstraZeneca / イタリア(ミラノ)/ 2022年リニューアル

皆が楽しく働ける「村」が実践するサステナブルアクション

ナティクシス / ポルトガル

コンセプトは「村」―オフィスのあり方を見直したリニューアル

フランスの金融グループであるBPCE傘下の投資銀行ナティクシスは、ポルトガル・ポルトのオフィスにおいて、リニューアルプロジェクト「ザ・ヴィレッジ」を実施。当プロジェクトは、テレワークが普及するなかオフィスで働くことをより魅力的にすべく、利便性の空間から体験の空間への変革をめざしたもので、構想から完成まで2年かけて行われました。

リニューアルの内容は、オフィスの3フロア(うち3階4階の様子)において、世界の各都市をモチーフにした12のワークスペース(通称:「村」)を展開するというもの。これは、30か国以上の国籍を持つ約 2,000 人の従業員が働く当企業の多様性と包括性を反映しています。ワークスペースのうち、例えば「ポルト」では、特産品であるポートワインの香りが漂い、街の伝統的なワインセラーのような内装とし、「ホノルル」では、まるでビーチにいるような気分が味わえるイベント向きのトロピカルな空間とするなど、それぞれの地域を特徴づける音・香り・設えが組み合わさっています。

魅力的なワークスペースをつくる、地球にやさしい資材とインテリア

すべてのワークスペースは、環境認証済みおよびリサイクル資材を優先的に使用してつくられています。さらに、材料を入手する方法にもひと工夫。

使用する資材は地元企業から調達し、ワークスペース内の装飾は地元のコンセプトショップなどから見繕ったものを使用するほか、近隣地域であるリスボンとポルトのNPO団体から中古家具を調達することで、輸送時に発生するCO2削減と、インテリアの再利用による廃棄物軽減に取り組みました。このほか、カーボンニュートラルな床材やLED照明を使用することで、地球にやさしい空間をつくり上げています。

誰もが楽しく快適なインクルーシブ設計

ワークスペースは、発達障がいを持つ従業員のことも考えてつくられています。ワークスペースにはそれぞれ、音に敏感な人でも集中して作業できる遮音効果のある部屋や、ゆったりくつろいで心を落ち着かせるスペースを設けることで、従業員自身の性格・特性や働き方に合わせて作業場所を自由に選択できるようにしました。

遊び心に溢れたワークスペースは、日々の出社の楽しみになりそうです。サステナビリティの観点から資材選びにこだわってつくられた居心地のよい空間では、仕事もはかどることでしょう。

Natixis / ポルトガル(ポルト)/ 2022年リニューアル

ソーシャルグッドな場所・素材選びで持続可能な社会づくりに貢献

ティスラン / フランス

新本社の入居場所に選んだのは、グループ会社が開発したグリーンビルディング

不動産建設・販売・管理に携わるティスランは、2023年に本社を移転。子会社であるナカラが開発したグリーンビルディング「ShAKe」に入居しました。「ShAKe」は建築にあたり、サーキュラーエコノミーの実践にふみ出しています。陸軍が使用した電気ケーブルを再利用してビルの屋外照明の電力供給に用いるという革新的な試みのほか、太陽光パネルでの自家発電や、雨水再利用システムを用意してビルの屋上菜園への散水用水をつくるなど、積極的にさまざまなアクションを起こしました。国際的なグリーンビルディング認証であるBREEAM認証のExcellent評価(5段階のうち4番目)を獲得済みです。

あらゆる手法でCO2削減!再利用・アップサイクルへの革新的なアプローチ

オフィス内の素材・設備・家具などは、どのくらいサステナブルか/環境に配慮しているか/社会や地域経済と関わりを持つかといった、意欲的なESG基準に従って指定しました。これにより、推定約76トンのCO2削減に成功しています。

床材には、2,000㎡以上の再利用カーペットを使用。ビニール床も約2,000㎡使われていますが、これはオフィスから30分もかからない場所で製造されたもの。輸送に伴うCO2の排出を削減しています。なお、剥がされた既存の床材の95%は、2024年パリ五輪の選手村で再利用されました。

すべての個人用ワークスペースと会議用テーブルは、近隣の社会復帰団体で働く20人の見習い職人がリサイクル素材/バイオ素材を使用して制作しました。このほか、インテリアは再生プラスチックを積極的に使用してつくられています。約270㎡のカーテン生地の78%がリサイクルされたプラスチックを材料としており、一部の照明器具も43%がリサイクルされたプラスチックからできているのです。加えて、エコラベル認証とバイオソース製品ラベルを取得した塗料(80%以上自然由来で98%バイオ由来の植物樹脂を配合してできた塗料)を使用することで、温室効果ガス削減につなげています。

自然素材で従業員に安らぎを

オフィス内部の設計は、数百羽もの親子が巨大な巣で一緒に暮らすハタオリドリからインスピレーションを得て、個々のチームが快適さ・落ち着き・幸福感を得られるようなワークスペースを実現するゾーニングとなっています。

オフィスの品質・性能・快適さの指標としては、バイオフィリア(前述)を中心に組み込みました。室内に穏やかさをもたらすために、グリーンウォールや観葉植物などさまざまな形状の木材や植物・鉱物を配置。窓から見える屋外の自然景観ともマッチしています。インテリアの色調は穏やかで心を落ち着かせるものを選択し、緑と木目調によって自然のイメージを強調させました。こちらにオフィス内の画像が掲載されています。

ティスランの新オフィスは、外装・内装の両面からサステナブルアクションへの強い意気込みを感じます。使用する素材をこだわり抜くことで、CO2の排出を大幅に削減できるということがよくわかる事例です。

Tisserin / フランス(リール)/ 2023年リニューアル/ 延床面積 約4,000㎡

Researcherʼs Comment

今回は、オフィスをつくる段階から廃棄物やCO2の削減、廃材やリサイクル素材の積極的な利用を意識している海外事例を紹介しました。豊富なアイデアからは、空間設計においてさまざまな環境配慮のための工夫が可能であり、それらによって持続可能性へアプローチすることができるとおわかりいただけたかと思います。環境認証を得ている素材を使ったインテリアに置き換える、ワークスペース付近にリサイクルボックスを設けるなど、小さな工夫から始めることもできそうです。

加えて、今回取り上げた事例を見てみると、サステナブルなオフィスは地球環境だけでなく、そこで働く人にとっても良い影響が出るといえそうです。緑に囲まれることで心が安定して集中力が高まるなど、サステナブルな空間づくりは従業員のパフォーマンスを引き出すことにもつながるかもしれません。また、廃棄物削減、CO2削減に取り組むオフィス環境は、Z世代をはじめとした従業員のモチベーションや満足度を高める、求職者に訴求する要素になりそうです。企業がサステナブルアクションに取り組む姿勢をみせることは、従業員のエンゲージメント向上につながり、離職率の低下も望めるかもしれません。

サステナブルアクションの実践が企業に求められているものの、その手法はさまざまで何から始めたらよいか迷っている方も多いはず。まずはこのレポートをヒントに、オフィス空間を使ってできることを検討してみてはいかがでしょうか。(丹青研究所 国際文化観光研究室)


この記事を書いた人

丹青研究所

丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら

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