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Z世代のエンゲージメントを高める海外のオフィス空間
ワークプレイス |
働きやすいオフィス環境は、従業員の前向きな姿勢を引き出し、自発的な行動や組織への貢献を促します。本レポートでは、企業のこれからを担うZ世代(1990年代半ば〜2010年代前半生まれ)のエンゲージメントを高める工夫がみられる企業オフィスの海外事例を紹介します。
※このレポートは2025年11月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。
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目次
Z世代を意識した「楽しさ・健康・つながり」を生むオフィス
| アジア・パシフィック・ブリュワリーズ・シンガポール(略APBS) / シンガポール |
従業員同士の交流と働きやすさを重視した設計
東南アジアで人気の「タイガービール」で知られる、ハイネケン傘下のビールメーカー・アジア・パシフィック・ブリュワリーズ・シンガポール(以下、APBS)。従業員の交流促進と働きやすい環境づくりを重視した、「楽しさ・健康・つながり」をテーマとする多機能型の本社オフィスを構えています。
オフィスは、自社ブランドであるタイガービールの歩みを伝える展示コーナーや、健康・リフレッシュのための豊富な設備(ジム、ヨガスタジオ、スチームバス、睡眠ポッド等)、手軽な価格で利用できる充実したカフェコーナーといった、魅力的なエリアで構成。中でも、自社のビールが無料で飲める社内バー「タイガー・タバーン」は、仕事終わりの従業員で賑わいます。「ビールを通じた人と人とのつながり」を日常的に醸成する場として機能しているようです。
ほかにもユニークなのは、巨大な屋内滑り台。ビール醸造所のパイプを再利用してつくられました。こうした空間の工夫によって、社内の雰囲気を柔らかくし、創造性や従業員間の自然な交流を生み出しているようです。こちらの動画から、社内を覗いてみてください。

若年層が活躍する職場ならではの工夫
屋内滑り台を手がけたデザイン会社D'Perceptionによると、屋内滑り台の設置は、APBSの従業員が主にミレニアル世代とZ世代で構成されていることをふまえた発想とのこと。オフィス空間には、タイガービールのブランドらしさを明確に打ち出しつつ、トレンディでダイナミックな雰囲気が求められていたようです。オフィスは開設後も、現場主導での空間づくりを推進中。実際、従業員の発案でバドミントンコートや卓球用のスペースが新たに設置されました。
また、APBSは従業員のメンタルヘルスを重視しています。オフィス内のスペースを活用したムエタイ教室や陶芸・革細工のワークショップ、対話イベント、ウェビナーの開催によって、オープンな会話とつながりの場を創出。ほかにも、メンタルヘルスの専門家と提携した24 時間 365 日いつでもケアを受けられるオンデマンドサポートアプリを導入・提供しています。
こうした取り組みが功を奏してか、APBSは「シンガポールのベスト・エンプロイヤー2025」で第2位にランクイン。「働きがいのある会社(Great Place to Work®)」認証も3年連続で取得しています。
● Asia Pacific Breweries Singapore / シンガポール / 施設名称 Asia Pacific Breweries Singapore Headquarters(APBS本社) / オープン年 1990年(リニューアル年不明) / 面積約3,391㎡

インスタ映えと働きやすさの両立で出社を促す
| ペプシコ / ポーランド |
出社したくなる居心地の良い環境づくり
アメリカの大手ドリンク・スナックメーカー・ペプシコは、80年以上にわたってヨーロッパで事業を展開しています。特にポーランドには2023年、ワルシャワにある本部とは別に、グローバル・ビジネス・サービス(GBS)部門のケイパビリティセンター(※コストが低く、かつ優秀な人材が豊富な国に多国籍企業が設立する、特定の業務を担う拠点)としての新オフィスが設置されました。南部の都市クラクフに位置する、複数のオフィスが入居する複合施設・ブレインパーク内の3フロアに展開しています。
社内は、ハイブリッドワークを前提としながらも出社を促進するように設計されています。プライバシーを保ちつつ快適に働くことができる書斎のような作業環境と、用途に合わせて選択できるチームのための多様でオープンなワークスペースが共存。個人作業/共同作業スペース、ミーティングスペース、フィットネスエリアやマッサージチェアがあるリラックススペース、屋外テラス、そして何ともユニークな自撮り用ブース等で構成されています。また、3つのフロアをシームレスに繋ぐ内部の螺旋階段は、従業員同士の偶発的なコミュニケーションの創出を促します。
環境づくりにおいては、従業員のウェルビーイングも重視。ワークスペースの配置は自然光を最大限に取り込むように工夫することで、健康的で活気のある雰囲気を生み出しています。さらに、緑や木材など自然の要素を取り入れたリラックススペースの設置によって、デジタルデトックスのひとときを提供しています。
フォトジェニックなオフィスで若い世代を惹きつける
オフィスの内装は、従業員が思わず写真を撮って自慢したくなるような空間に設計。こちらの動画からもわかるように、ブランドのアイデンティティをオフィスで体現しています。フロアごとにペプシコの主力製品から着想を得たテーマカラーを設定する等、ブランドの特徴的な要素を取り込んだポップな内装は、そこにいるだけで楽しい気持ちになるでしょう。

内装を手がけたオフィスデザイン企業Colliers Defineによると、フォトジェニックな内装は、オフィスで働くGBS部門の従業員の60%以上が若年層であることに基づいています。若い世代の従業員を惹きつけるとともに、オフィスを訪れるすべての人にユニークな体験を提供することを目的としているとのこと。従業員が自慢したくなるようなデザインは、若年層への訴求だけでなく、人材獲得に向けた強力なツールとしての効果が期待されているようです。
● PepsiCo / ポーランド(クラクフ)/ 施設名称 PepsiCo Global Business Services Poland / オープン年 2023年 / 面積約5,000㎡(3フロア)
働きながら創造性とエンゲージメントが育つ環境づくり
| レゴ・グループ / 中国 |
オン・オフの切り替えがしやすいレイアウト
玩具メーカー・レゴ・グループの上海本社オフィス「Shanghub」は、2017年の移転に際し、中国に本社を構えるインテリアデザイン会社Robarts Spacesと協力して新たにつくられました。
3フロアで構成されるオフィスは、上層階から下層階にかけて「アクティブゾーン」から「クワイエットゾーン」へと、リフレッシュから集中へ自然に切り替えられるゾーニングを採用しています。各階には、バリスタによる淹れたてコーヒーが無料で味わえるカフェ、レゴブロックや中国将棋で遊べるプレイエリア、禅スペース、半個室/オープン型の個人作業スペース、多様なコラボレーションスペース、発声禁止のサイレントスペースなどを配置。従業員がその日の気分や業務内容に応じて自由に居場所を選べる環境を整備しています。こうした設計は、レゴ・グループが掲げる「新しい働き方(New Ways Of Working)」戦略を具体化したものです。
「アクティブゾーン」と「クワイエットゾーン」の中間地点は、立ち寄った従業員同士の会話が弾み、新しいアイデアが生まれる場となるように設計されています。キオスクをはじめ、プリンターや文房具の提供、ドリンクコーナーといったサービスが揃い、従業員同士が気軽に交流できる環境が整っています。
オフィスデザインを通じて創造性とエンゲージメントを高める
レゴ・グループのグローバルデザイン&エンゲージメントチームがRobarts Spacesと協働し、複数のワークショップを行うなどして進めたデザインプロセスは、レゴ・グループが掲げる「デザインを通じたエンゲージメントの創出と育成」という目標を反映しています。

このプロセスはグローバルかつローカルな従業員同士のつながり、顧客とのつながり、そしてレゴというブランド・歴史とのつながりのなかで、協調性、創造性、楽しさ、敬意を育むものであるとしています。
レゴのロゴマークに用いられるカラー(黄・赤・白・黒)でまとめられたオフィスの随所には、レゴミニフィギュアの大型グラフィックや、レゴブロックを模したインテリアが点在しています。これに加え、中国の提灯を思わせる照明や、レゴで再現した中国の代表的な建築物のオブジェ等を配置することで、地域文化とブランドアイデンティティの融合を図っています。さらに、オフィス内には従業員や地元の子どもたちが制作したレゴ作品を展示し、地域コミュニティーとの交流を促進。こうした要素は、従業員の創造性とエンゲージメントを高める仕組みとして機能しているようです。
● The Lego Group / 中国(上海)/ 施設名称LEGO Shanghai Hub(ShangHub) / オープン年 2014年(オフィス移転は2017年) / 延床面積約7,000㎡(3フロア)
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Researcherʼs Comment
多様で柔軟な働き方が普及している今、Z世代がオフィスに求めるものも一様ではないでしょう。そのような中で、今回取り上げた3事例には、それぞれの企業が自社らしい形でそのニーズに応えようとする工夫が見られます。
APBSの本社オフィスは、「楽しさ」や「健康」といった要素を軸に、従業員同士の交流を促す空間づくりを行っている点が特徴的です。ブランド体験にもなる社内バーや充実したフィットネス設備、巨大な屋内滑り台、従業員発案によるスペースの拡充など、職場をより開かれた場へと変える仕掛けが随所に見られます。ペプシコの事例からは、Z世代の出社意欲を高める工夫として、彼らの感性に寄り添うデザインも効果的であるとうかがえます。周囲に自慢したくなるほどカラフルで楽しいオフィスには、従業員を引き寄せる力があるでしょう。社内コミュニケーションを活発にする助けとなるかもしれません。レゴ・グループの上海オフィスは、ブランドの世界観と働く環境を融合させた設計が印象的です。ゾーニングによって働き方の選択肢を広げるとともに、ブランドモチーフや地域文化を空間に取り入れることで、創造性を刺激する雰囲気をつくり出しています。また、オフィスを通じて自社のアイデンティティを日常的に感じられる点は、従業員の意識や行動にも好影響を与えていると考えられます。
「Z世代・ミレニアル世代はオフィスに何を求める?インタビューから見えた世代差とオフィスづくりのヒント」では、Z世代がオフィス環境に求める要素として、「人とつながる偶発性」が挙げられています。これはまさに、今回の3事例にも通じる要素といえるでしょう。オフィスを単なる働く場ではなく、つながりを育む場として再定義することが、これからの企業に求められているのかもしれません。Z世代のエンゲージメントを高め、共に成長できる職場のあり方を探る手がかりとして、本レポートがお役に立てば幸いです。(丹青研究所 国際文化観光研究室)

この記事を書いた人
丹青研究所
丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。 丹青研究所の紹介サイトはこちら
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